開いた心の距離と現実
庭にきれいな花が咲いた。
午後から一緒に見に行かないかと誘ったが、その日からフローラの表情が浮かないものに変わり始めた。
まさかとは思ったが、どうやら彼女にも俺と同じ通達がいったようだ。
告げるな告げるなと向こうが言っていたくせに、相当切羽詰まったのか向こうの方から告げてくるなんて。
フローラも知ってしまったのだろう。
彼女の祖母であり、王宮の魔女の体調が思わしくないということを。
目に見えて元気がなくなってしまったフローラを少しでも元気づけたくて、美味しいケーキを準備してお茶を飲もうと無理やり席につかせた。
フローラは隠しているつもりだろうけど、ところどころで表情はくもり、間違いないと確信した。
考えたくもないが、もしも王宮の魔女が倒れてしまった場合、真っ先に後継者としてフローラが迎え入れられるだろう。
王子に呪いをかけたと言われているものの、国王と王妃である父も母も彼女のせいだとは思っていなかったし、王子である兄たちも彼女ではなく末王子が一番悪いとしっかりわかっている。
第一、当の本人である末王子《俺》が彼女が悪いだなんて認めていない。
加えて、ここ数ヶ月の見違えるほどの彼女の成長と功績は称賛に値し、彼女が思っている以上にみんなフローラを必要としていて、もはやもう彼女が囚人魔女としてこの森に住み続ける必要なんてどこにもなかった。
「フローラ、どのお茶にしますか?」
努めて明るい声を出す。
どうせ終わりを迎えるのなら、一日一日を後悔せずに過ごしていきたい。
俺自身も本能でそう悟ってしまったわけだから、終わりへのカウントダウンはすでに始まりを見せていたようだ。
いつもなら、お茶を淹れるのは自分にさせてほしいと譲らないフローラが黙って目の前のパッケージに手を伸ばす。
少しでも心を落ち着けてほしいと心を込めて、彼女の前に温かなお茶とケーキを並べた。
他愛もない話を繰り返すも、力なく笑うフローラの耳には半分くらいしか届いていないのだろう。
国境沿いで疫病が流行って騎士たちの間で蔓延した。
王宮の魔女が倒れた。
国を守る結界が揺らいだため、各国からの侵略の恐れが出始める。
また、魔女フローラを囚人にしてしまったアベンシャールの末王子を狙う一派も存在している。
とにかく問題だらけだ。
フローラの笑顔さえ見られたら何でも耐えられる気がしたけど今はそれも難しい。
落ち着いて考えろ。
常に自分に言い聞かせた。
そうこうしているうちに、近衛騎士の隊長であるハルクから近いうちにまたこの地を訪問すると通達が届いた。
ハルク自らこの地に来るということは、嫌な予感しかしない。
「はぁ……」
二年間のんきに過ごしすぎてしまったせいだろう。
全くもって頭のキレは悪く、いい案が浮かんでこなかった。




