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魔女と騎士の春の朝

 翌日、モフモフからまた何か便りが来たようだったけど、俺は有頂天で内容に関して気にも止めなかった。


 淡い色の花びらを背にいっぱいつけて、モフモフが外をふよふよと行ったり来たりしているのが目に入った。


 またフローラを王宮に連れ帰れという手紙だったため、いつもの通り見なかったことにする。


 朝食の準備をしながら天にも昇る思いで、昨晩のことを思い返す。


 幾度かの口づけを交わしたあと、フローラもずいぶん落ち着いたように見えたため、室内に戻ることになった。


 本当はその後も心配と名残り惜しさで一緒に過ごしたかったけど、フローラももう大丈夫だと断固として譲らなかったし、こちらも自制できない恐れがあるため自重して彼女を部屋に送り届けるだけの役割を全うした。


 別れ際にもう一度だけ口づけるとフローラはもう嫌だということもなく遠慮がちに小さく押し返してきた。


『また明日』


 明日という言葉をこれほど永遠に感じられたことはあっただろうか。


 サラダの盛り付け、キャロットのドレッシングをかけ終えたあと、嬉々として彼女の部屋に向かった。


 彼女に会うのが待ち遠しい。


「おはようございます、フローラ」


 いつものようにノックをすると、一度目のノックで扉が開き、ノソッと彼女が出てきたのだった。


「おはようございます、フローラ!!」


「お、おはようございます……」


 初めて会ったときと同じくらい髪の毛をボサボサにしたフローラが頬を染めたまま分厚いショールにくるまっていた。


「あのあとはゆっくり休めましたか?」


 俺の顔を見るなり、ハッと意識をしたようにショールに顔を半分隠しながら頷く。


(ああ、かわいい……)


「それはよかった」


 そう言って彼女が握りしめるショールに触れ、そのまま彼女の頬に口づけると小さく悲鳴をあげたフローラは逃げるわけでもなく、むすっとした状態で唇をとがらせてこちらに目を向けた。


「今日の予定はありませんから、ゆっくり過ごしましょう。食後にあたたかいハーブティーをお入れしますから」


 小さく頷いてそのまま洗面室まで走り去ってしまう彼女の後ろ姿を見て、初めて彼女が自分を意識してくれたことがわかり、今にも両手を掲げ、大声で叫びだしそうだった。


 彼女は狼狽している様子ではあるが、昨日の情緒不安定な様子ではなく安心した。


 しぼりたてのオレンジをグラスに注ぎ、彼女が変わらず真っ赤な顔で戻ってくるのをとても幸せな気持ちで待っていた。


 この日を最後に、俺たちの生活が終わりに近づいていったことを知る由もなく。


 俺はとてもとても幸せだった。

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