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星の降る夜に君想う

 ごめん……ごめん……ごめんごめんごめん……


 何度謝ったって足りやしない。


 フローラの人生をめちゃくちゃにしたのは、この俺だ。


「んっ……」


 彼女を抱き寄せ、祈るように手を握り続けていたが、彼女の異変にはっとする。


「フローラ! フローラっ!」


 声が届くまで呼びかける。


「フローラ!」


(お願いだ、起きてくれ……)


「はっ!」


 息を吹き返したように彼女の大きな瞳が見開かれる。


 同時に瞳にたまった涙もあふれ続けていた。


「フローラ、大丈夫ですか?」


 一刻も早く彼女を抱きしめたかったが、顔を見せて安心させるほうが先だ。


「ジャ……ドール……」


 彼女が一番に俺の名を呼んだ。


 その事実に泣きそうになった。


「ええ、俺はここにいます」


 しっかり彼女の手を握り、落ち着いた声で答える。


「ジャドール、ジャドール……」


「もう大丈夫ですよ」


 よほど辛かったのだろう。


 さらに泣き出した彼女は、そのまま俺にしがみついて全身を大きく震わせていた。


「ジャドール……ジャドール……」


「大丈夫です。大丈夫ですから」


 彼女の背に手を伸ばし、彼女に届くよう繰り返すように伝え続ける。


「俺はあなたのそばを絶対に離れませんから。さ、ゆっくり呼吸して」


 頬に触れると大きな目をぱちくりさせ、彼女は頷く。


「大丈夫ですから」


 俺が唱えるリズムに合わせ、フローラは言われたとおりに深呼吸を繰り返し、そのまま再び俺の胸に頭を預けてきた。


 力をなくした彼女は見てられなかった。


「外の空気でも吸いましょうか」


 抱きかかえると、やっぱり羽が生えたように軽い彼女はぎゅっとさらにしがみついてきた。


「寒かったら言ってくださいね。わぁ、空がきれいですよ」


 見上げた空には無数の星が瞬いていた。


 いつもいつもたくさんの星を見てきたけど、フローラと見る夜の景色は別格だ。


 季節はあっという間に巡っていく。


 初めて出会ったのも、こんな季節だった。


 再会したときも、同じような春の日だった。


 あの頃は、星ひとつ見えない夜空をひとりで眺めていた。


 こうして距離が近づく未来が来るなんて、過去の俺は想像できただろうか。


 フローラを抱えたまま橋のそばに腰を下ろし、未だ体を小さく震わすフローラの手を握る。


 一生懸命俺の言った通り呼吸を繰り返すフローラの愛らしいことと言ったら。


 二度と泣かせたくないと誓ったばかりだというのに。


 いつも彼女を苦しめるのは、もうひとりの自分の存在なのだ。


 幸せにしたい。でもできない。


 その事実を想像するだけで胸が押しつぶされそうだった。

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