魔女の見る悪夢と真実
確実に、フローラの魔力は別格のものへと変貌を遂げていた。
その日は、新月の夜ではなかった。
それでもすぐに異変には気づいた。
ピリッと、突然空気が張り詰めたのだ。
「フローラ!」
慌てて渡り廊下を走り、リビングに続く戸を開くと、信じられないほどの圧力に弾き飛ばされそうになった。
奥の方からすすり泣く声が聞こえる。
「フ……フローラ!」
どうして……また?
最近は新月の夜も何ともなかったではないか。
とにかくすぐにでもそばにいかないと。
ぐっと拳を握り、足を一歩踏み入れる。
泣き声はやはり、フローラの部屋から聞こえた。
アベンシャールの末王子に呪いをかけた彼女は、彼女自身も同じく深い呪いを背負ってしまっただと彼女の母であるルシファー様は言っていた。
まさに、これは彼女にかかった呪いだった。
「フローラ……」
戸を開けると、ふとんにくるまって彼女は泣いていた。
ごめんなさい……ごめんなさい……と何度も繰り返している。
「フローラ……」
俺が未熟だったばかりに、自分のことしか考えなかったばかりに、彼女をこんな目に合わせてしまった。
悔やんでも悔やみきれない。
「あなたは、何も悪くない」
そう言って、ただ彼女の手を握ることしか出来ない。
「あなたは、何も悪いことなんてしていないんです」
悪いのは、すべて俺だ。
アベンシャールの末王子だ。
それなのに、彼女の嗚咽は続く。
「わら……てほしかっただけなの……」
彼女はずっと、暗闇の中にいた。
「な……まえを……呼んでほしかった……」
今も、変わらずその場所でもがいている。
「フローラ、目を覚まして!」
ずっとずっと、その場所で。
ひとりきりで。
「フローラ、お願いだ。俺を見てくれ」
手を伸ばしても、届かない。
遠く遠くでフローラは泣き続けている。
「俺は……」
どうしたらいい。
また、何もできないのか。
「俺は……アベンシャールの末王子は、あなたが思うよりずっと幸せなんだ。ずっとずっと、幸せなんだ……フローラ……お願いだ」
悲痛な叫びは、フローラには届かない。




