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ふたりの生活が終わるとき
王宮の魔女が倒れた。
その連絡が入ったのは、春が訪れる少し前のことだった。
フローラへの依頼と帰還要請が増えていたから嫌な予感はしていたが、敵中した。
本人はフローラには告げるなと言っているらしく、このことは他言無用と言い渡された。
共に過ごすうちに彼女の口から彼女の祖母についての話題を耳にすることは減ったが、数少ない身内のひとりだ。
むしろルシファー様が彼女の前に現れない今、フローラの身内は王宮の魔女たったひとりだ。
フローラが望むのなら、すぐにでも会わせてやりたいと思っていた。
背中に刻まれた刻印が作動するため、深いことは言えないが彼女に伝える方法はいくらでもある。
ただし、彼女がまたここに戻ってこられるかは別の話で、少しずつ音を立てて平穏だった毎日が終わりに向かって進み始めているのがわかった。




