深い森の中に住む騎士
「スチュアート様、本当に護衛の騎士をつけなくてよろしいのでしょうか?」
「問題ない。……わけではないが、わたしも彼女を連れて逃げるくらいの力なら備えているつもりだ」
跪き、心配そうな面持ちでこちらを見上げる騎士たちに笑ってみせる。
「悪かったな、ここまでこさせて。父の命令だったと思うが、大変だっただろ」
「馬を飛ばして4日かかりました……なんなんですか、ここは……」
「そういうものなんだ。日によって様々のようで、わたしのときは半日もかからなかったんだよ。よほどフローラに会いたくて仕方がなかったようだ」
「スチュアート様は怖くないんですか?」
漆黒の闇の中で恐る恐るあちこちを見渡し、口々に騎士が怯えた声を出す。
状況が少しずつ。変わる中で彼らは国王である父の命を受けてこの深い森まで定期的にやってくるようになった。
もちろん、フローラに知られてはいけないため、彼女が眠っている深夜にのみ対応するようにはしている。
「変な鳴き声はするし、嫌な悪寒もします」
「はは、情けないことをいうな。過ごしていたら慣れるさ」
最初はもっとくもりが続いていて自分も違和感ばかりを感じていたことは黙っておこう。
「それに、フローラが可愛すぎてここがどこかなんて関係なくなってしまうんだ」
「……ス、スチュアート様」
「ん? なんだ」
不思議そうな表情を浮かべる彼らの言いたいことはだいたいわかるが、面白くてつい確認したくなる。
「いえ、変わったなぁと思いまして」
あ、いい意味ですよ……などと付け加えて彼らは言いにくそうに続けた。
「あの……失礼は承知で申し上げるんですが……その、ここにいらっしゃる魔女様はそんなに素晴らしい方なのでしょうか」
「素晴らしいなんてものじゃない。最高のお方だ」
そういえば、彼らは会ったことがなかったなと改めて思い出す。
「あの……スチュアート様……その、その魔女様の魅力に惑わされているなんてことは……」
「毎日魅了されている」
「そ、それは大丈夫なんですか……」
「そうですよっ、フローラ様のお母様のルシファー様はかなり魅惑的な御方だったと」
「あの方も素敵な方だが、フローラは特別だ」
「スチュアートさまぁ〜」
情けない声を出し続ける騎士たちに思わず笑いが漏れた。
「大丈夫だ。彼女への想いは子どもの頃から変わらない。ハルクにもよろしく伝えてくれ」
騎士たちの先頭に立って相変わらずマイペースに猛突進していると噂では聞いている。
命じることがない限りは彼からの文が届くことがないため、近況は詳しく分からないが騎士団の隊長として誰よりも優秀であることはそばで見ていた俺が良くわかっている。
「隊長なんて、おモテになるのにまったく女性たちに興味を示さず……みんな心配しているんですよ!」
「そうですよ。隊長こそ魔女様の魅力にメロメロになってくださればいいのに」
「それだけは許さない」
性格はどうであれ、あのキラキラした容姿でそう簡単にフローラに近づかれてはたまらない。
「スチュアート様、また来ます」
「無理はしないでくれ」
「スチュアート様もご無事で」
「ありがとう」
そう告げると彼らは頭を深く深く下げ、そのまま馬にまたがる。
先頭に立つ馬のみが帰り道を知っている。
次彼らがここに現れるのはいつのことになるやら。
お互いの無事を願い、掛け声とともに馬が走り出したのを見届けてから俺はゆっくりと剣を抜き、結界を張り直す。
もう少しで朝が来る。




