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魔女の新しい魔法

「ジャドール」


「はい!」


 フローラも微妙な表情を浮かべたため、同じことを思ったのだろう。


 さっと向かう様子は我ながら犬のようだなと思いつつ、俺にはそれ以外の選択肢はない。彼女に呼ばれたら絶対である。


「あなたはわたしの監視の騎士であって、召使いではないのです。そんないつも気を張って接してくださらなくても大丈夫ですから」


「俺も自分の素早さにちょっと引きましたけど、あなたに呼ばれたらすぐにでも近くに行きたくなります」


「も、もう……」


 ほんのり赤みがかった唇を尖らせ、彼女は手を出す。


「ジャドール、手を」


「? はい」


 握れというのだろうか。


 それならば大歓迎だとすぐさま彼女の小さな手に自分のものを重ねるとひんやりとした感覚が伝わってきた。


 回しきれない指でぎゅっと握られ、さすがに驚くも目の前の彼女があまりにも真剣そのものな表情を見せたため、様子を見守ると突然、ふわっと温かな熱に包まれた。


「うまくいきました!」


「えっ? 今のは……」


「あなたの手に熱を送りました!」


 ホカホカになった両手を解放されて、改めて自分で感覚を確認しつつ尋ねると、彼女は得意げに口角を上げた。


「いつも全てのお仕事をお願いしていて、あなたの手が冷えてしまっていることを知っていたのにごめんなさい」


 そっと指を添えられ、あなたの手の方が冷えてますけど……と言いたいのをぐっとこらえ、続く彼女の言葉にさらにじんわりさせられることになる。


「あなたの手を温められるように、ここに気をためる練習をしていたんです。これからは手が冷たくなってもすぐに温かくできそうです」


「俺のために、練習をしてくださったんですか?」


「なかなか上達に時間がかかってしまいました」


「す、素晴らしいです」


「そ、そうですか?」


 実践はあまり得意ではないのかもしれません、と眉尻を下げながら彼女は両手で自身の頬に触れる。照れているのか微かに耳まで朱色に染まっていた。


「そうです。少しずついろんなことができるようになっていて、さすがだなぁと驚いています」


 言葉通り、カタコトしかでてこない。


「また、お願いします」


「もちろんです」


 笑顔を見せた彼女は、手が冷えるたびにこうして握ってくれるというのだろうか。


 少しずつ少しずつ、魔女として成長を続ける彼女はここ数日でずいぶん変わったように思い、さらに進化を遂げ、なおかつ自分のために努力をしてくれていたという事実に喜ばずしていられなかった。


「これが使えると髪の毛が乾かしやすくなりました」


「えっ!」


「だからもう、あなたにお手伝いいただかなくても大丈夫かと思いま……」


「ダメです!」


「えっ?」


「そ、それは俺の大切な仕事です」


「ち、違いますよ。あなたにそんな義務は……」


「誇りを持ってやっているんですから、奪わないでください!!」


 魔法とは、便利な反面、大切なものも奪っていく。


 改めてそのことを悟り、快適になりつつあるのも考えものだと思わずにはいられなかった。


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