魔女と暮らすということ
冬場は自然とリビングで過ごすことが増えた。
いつもは自室にこもりっきりだった彼女が大きな壺を運んできてはそこで作業をするようになったからだ。
彼女の中でルールがあるようで、朝の九時に壺を運んできては、夕方四時頃に片付けに戻っていく。
こうやって彼女は一日のルーティンを繰り返していたのだと思うと面白くなった。
たまに分厚い書籍を担いできては難しい顔をして壺の中から薬草をいくつか取り出し、紙の上に並べている……そんな様子を眺めながら俺は冬の飾り付けを作っていた。
王宮にいるよりも素晴らしいと言ってもらえるようイベントのたびにあれやこれやと試行錯誤を繰り返す。
雪を見立てて綿を丸めて窓に貼ったり、色紙を折って天井から吊るしてみたり。
外の木々には電飾を施してみたりなんかもした。
一年前の彼女はその様子を感動したように眺めていたため、今年も喜んでくれると嬉しい。
フローラは集中してしまうと周りが見えなくなってしまうようで、呼びかけても反応をしないことが多いため、できるだけ邪魔をしないように俺もそばで静かに別の作業に取り掛かる日が増えた。
お昼の時間になり、俺が席を外して調理場に立つもフローラは気づくことはない。
真剣な面持ちのまま顔を上げることをせず、その頃になると何か歪な形の皿の中を大きな延し棒でかき混ぜていた。
ああやったら薬草ができていくのかと、不思議な気持ちで眺めてしまう。
きっと魔力を持たない俺が同じことをやっても何の変化も起こらないのだろうけど、彼女が手を加えると効果が変わるというのは興味深かった。
同時に、幼き魔女がどんな思いで呪いと言われた薬草を作ったのだろうかと考えてしまって胸がぐっと痛んだ。
しっかりこのことを受け止めなくてはいけないと思いつつも、この記憶だけは消せるものなら消してしまいたかった。
想像するだけで彼女を抱きしめたくなってしまった。
お昼はオリーブオイルと鷹の爪でひき肉を炒め、茹でたパスタに乗せてみた。
我ながら良い香りがして、さてどうやって彼女を呼ぼうかと顔を上げると、彼女が目を輝かせてこちらを見ていた。
「あ、フローラ……昼食を作ったんですが、よろしいですか?」
「はい! いい香りがします」
先ほどの集中が嘘のように彼女はぴょこっと立ち上がり、近づいてきた。
「わぁ、おいしそう!」
無意識に詰められた距離がずいぶん縮んだことに改めて気づき、感慨深くなる。
「サラダも作ってますよ〜! ドレッシングは昨日作ったオニオンを含んだものです。お口に合うといいですけど」
「ジャドールの作ったものはすべて好きです」
ふふっと笑うその柔らかな笑顔の可愛いこと可愛いこと。
「食後のお茶はわたしに淹れさせてくださいね」
「もちろんですよ」
「手を洗ってきます」
薬草を壺に戻し、足早に洗面室に向かう彼女を見て、ああ……幸せだなぁと何気ない幸せを噛みしめる。
変わり映えのない冬の日はこうしてゆったりと過ぎていく。
午後からの過ごし方を想像しながら胸を弾ませ、俺はテーブルに昼食を並べた。




