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囚われた騎士の生きる術

 ものの数秒で方がついた。


 凄まじく険しい表情で唸っていた種類不明の生き物たちもこちらを見つめ、キュインキュインと鳴き始める。


 まるで俺がいじめたみたいで罪悪感もわいてくるし、いささか納得もいかないが、愛らしい瞳を向けられたら手を差し伸ばしたくなってくる。


「怖がらせて悪かったよ」


 膝をつき、剣を降ろすと彼らは恐る恐る近づいてくる。


 犬のような影のような真っ黒い生き物が十匹はそこにいる。


「でも、ここに住んでる方を怖がらせるのはやめてほしいんだ」


 伝わるわけがない。


 わかっているのに、きっと俺は自分に言い聞かせていたのだろう。


「彼女に危害を加えないなら、俺も何もしないから」


 手を伸ばした先にゆっくりと体を擦り寄せてくるその生き物は、触れた時に比べて徐々に温もりを帯びていったように思えた。


「とはいえ、これからここに一緒に住むようになったから、よろしく頼むよ」


 どの部分が顔でどの部分が図体なのかさえ定かではないものの、接してみると意外と可愛く思える不思議だ。


 森の住人なのだろうか。


 ここへやってきてから、毎日のようにこうして様々な姿形の生き物と対面しては同じ言葉を述べている気もする。


 話せば伝わるのか、彼らは納得したようにその場をあとする様子も全く同じだった。


 あの人を怖がらせたくない。


 あの人を守りたいのだと、そう伝えるとわかってくれることが多いため、ある意味歓迎されていなかったのは俺の方なのかもしれない。


 ふと視線を感じた気がして振り返ると、微動だにしなかったカーテンが少し揺れた気がした。


 一歩ずつ。


 一歩ずつでいい。


 少しずつでも彼女に寄り添えるようになりたい。


 そう願いながら、再び結界を張る術式を唱える。


 運命を一転させる出来事が起こったのはその少しあとのことだったけど、このときの俺は、なんだかんだでこの今の状況についてそこまで深く考えられていなかった。


 すべては口先だけだったのだと嫌でも悟ることになる。

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