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目覚めたらあなたと共に

 明るい日の光が差し込んできて目が覚める。


 腕の中の彼女はまだすやすやと寝息を立てていて、早く目覚めて俺の名を呼んで笑いかけてほしいなと思った。


 あれから、モフモフに乗って眠り続ける魔女様を連れてまっ先に戻ってきた俺は、気づいたら彼女同様、倒れるように眠ってしまったようだ。


 いろんなことがあったなと、しみじみ思う。


(ああ、可愛い……)


 長いまつげのかかる大きな瞳はうっすらくまがあって、小さな唇は果実のように赤い。


 絶対に術式の効果はほとんどないのだろうと思えるくらい彼女の魅力に絆され続けている。


 ずっと眠り続ける彼女が早く目覚めることを願い、そっと彼女の頬に触れる。


 もう一度口づけをしたら、絶対に怒られるのだろうけど……彼女との距離をなくし、ずっと触れていたい欲しかなくなり始めた。


 なけなしの理性を保ちつつ、親指で柔らかな唇に軽く触れると、んっ……と彼女が反応した気がしてはっとする。


「ま……魔女……様……」


「ジャ……ドール……」


 ぼんやりと開かれた灰色の瞳に俺の姿が映った。


「ああ、よかった……魔女様!」


 ぐっと胸にこみ上げるものがある。


 彼女に触れる指先にようやく熱が戻ってきたように感じられた。


「よかった……」


 彼女の頬を両手で包み込み、そのまま彼女の唇に自分のものを押し当てる。


「おはようございます、魔女様」


 もっと堪能していたかったが、これが限界だろう。彼女のぬくもりを感じる余裕もないほど軽く触れたつもりだったが、彼女の瞳がみるみる大きく見開かれたからだ。


「なっ……」


「はい?」


「な、なんてこと……」


 慌てて口元を隠す彼女に、思わず笑みが漏れる。


「く、唇に、あ、当たった……」


「当てましたよ。目覚めたらすぐに口づけをすると約束したではないですか」


「なっ、そんなわけ……」


「覚えてないんですか?」


 おかえり……心の中でそっと唱える。


「泣いて望んでくれたあなたを拒んだんです。ようやく術も解けたようなので、今からは心置きなく存分にあなたを愛します」


「そ、そんな……だ、ダメです!! ぜっ、絶対ダメです!!」


「昨日はもっとたくさんしたのに、今さら何を言っているんですか」


「なっ……」


「一回も二回も変わりません。次はもっと満足させてみせますから、ぜひ騙されたと思って……」


「し、知らない知らない知らないわぁぁぁ!」


 騒ぎ立てる彼女に遠慮することなく、唇にもっとも近い指先に口づける。


「きゃぁぁあ!」


 真っ赤になってぎゅっと目を閉じる様子が可愛くて、同時にやりすぎてしまったな……と、手の力を緩める。


「魔女様、体調はいかがですか?」


「……あっ、あなたのせいで心臓がとても大きく揺れてバクバクいってます」


「よかった!」


「よ、よくないです!」


「目覚めたとき、必ずまた俺に惚れさせてみせると言ったのは本気です。叶うならもっと……」


「だ、ダメです! こ、こ、こここれ以上は逆効果です!」


 瞳を潤ませた彼女があまりにも必死のため、さすがに身を引くしかない。


「ああ、残念。でも、俺は魔女様が大好きですから、諦めませんよ」


 言葉にしたらまた手を出してしまいそうだったため、必死に気持ちを切り替え、ベッドから降りる。


「魔女様はもう少し休んでいてください。何か食べるものをお持ちします」


 そういえば長らくここから離れていたため、調理場の様子も気になった。


「名前……」


「えっ?」


「名前で呼んでくれると言ったのに」


 頭まで布団をかぶった彼女が発した言葉を考えるのに少しかかった。


「なんでもないです。き、気にしないでください」


 そう言って背を向けられた。


 丸まった背中がぷるぷる震えている。


「あ……あなたは、俺をどうしたいんでしょうね」


 頭を抱えたくなる。


 もちろん、いい意味で、だ。


「朝ご飯は、もうしばらくあとにいたします」


「えっ……」


「フローラを堪能します」


「えっ、あっ……、ちょっ! きゃっ、きゃー!!」


 再び彼女に覆いかぶさったのは、そのあとすぐのこと。


 もうただの騎士ではない。


 一国の王子としても彼女の笑顔を守り、幸せに導いていく。


 胸元で慌てふためくフローラにまた頬が緩むのを感じながら、改めてそう誓った。

 



 

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