宴の終わり
「お待たせしました。もう大丈夫ですよ」
後方に向かって声を掛けると、苦笑を通り越えて呆れ顔の第三王子とその騎士たちがぞろぞろと現れた。
「ああ、一体、わたしたちは何を見せられたんだろうねぇ」
「そう思っているなら少しくらいは気を利かせてくださいよ。いいところだったんですから」
「正気を失ったフローラにこれ以上好き勝手をするようなら止めに入るところだったよ」
「はは、自分で止められただけ褒めてくださいよ」
腕の中で眠る大切な人は泣いていた。
可愛くて仕方なかったが、あんな顔はさせたくなかった。
大切な人にはいつも笑っていて欲しい。
「彼女も、こんな気持ちだったんだろうなと思うと申し訳なくなりました」
頬に触れると涙が流れた跡があった。
「何らかの力が働いて好かれることこそ虚しいものはありませんね」
彼女はずっと、アベンシャールの末王子は自分の惚れ薬のせいでおかしくなったと思っている。
その恐怖からだろう。俺がどれだけ『好き』だと伝えようとも好かれていることすべてを否定し続けてきていた。
信じられないと言っても無理はない。
「おまえは、とうするんだ?」
「出どころを調べますよ。フローラを傷つけるやつは許さない。俺に恨みがあるのなら、直接かかってこればいい」
「おお、怖い怖い。温厚だったうちの末っ子と違って、騎士様は気性が荒い」
「王子としても動きますよ。もう無視したりしませんので、世の中の動向も今までどおり送ってください」
「おまえは本当に抜け目がない男だな。フローラが関わると特にそうだ。絶対に敵に回したくない」
「お褒めの言葉と捕らえますね」
「……父上が喜ぶよ」
二度と王子には戻りたくなかった。
願わくば彼女とずっとあの空間でのんびり過ごせたらと思っていた。
それでも、そう言ってはいられなくなった。
もっと見解を広げ、様々なことを知る必要がある。そして、彼女を守っていかないといけない。
「さきほどの男もそうですけど、たとえ魔女様の監視役の騎士として仕えていたとは言え、監視できる能力は与えられたとしても魔女と同等の力が得られるわけではない」
絶対に黒幕が潜んでいるはずだ。
そうでなければ惚れ薬もその解毒薬さえ作ることなんてできないはずだ。
「わたしたちもそれは考えている」
「情報は逐一お待ちしています」
頭を下げると、第三王子はふっとだけ笑みを浮かべ、こちらに背を向けた。
この事件をきっかけに、俺とそのまわりの出来事が少しずつ変わり始めていった。
俺と彼女の関係も、何もかも。




