魔女を守ろうとした男たち
「わたしは彼女の呪いになどかかっていない」
かかっているものがあるとするならば、彼女の祖母によってすぐに解かれていた。
呪いと言っても、かわいいものだ。
意地を張っていたのが嘘のように心がふわふわとして、彼女に対する想いが胸から溢れたのだ。
彼女は人の……王子の心を操った罰を受け、重罪人として厳重な管理のもと作り上げられた深い森の中に閉じ込められることとなった。
「あの森に入ってまもなく、確かに気が病みそうにもなった」
明けても暮れても晴れない暗い空。
出ることができない深い森。
どこからともなく聞こえてくる獣の声。
「でも、わたしが彼女にしてしまったことを思えば、ひとりだけ弱音を吐くことはできなかったし、それに……」
浮かんだのは、あの笑顔だった。
「フローラを前にしたら、どこにいても幸せになれることを知ったんだ」
何をしても、心がうきうきした。
王宮にいたころは、感じられなかった優しい気持ちだ。
「これが、わたしが正気でいられた一番の理由だ」
「……本当に、フローラを愛しているのか」
「心から。わたしのすべてだ」
自分を呼ぶあの愛らしい声が聞こえるから、まだまだ前に進もうと思えるのだ。
「はっ、負けたよ、スチュアート王子」
「えっ」
「見てすぐに分かったよ。目の色が違った。何もかもすべてを諦めたように心を閉ざしていたフローラはもうどこにもいなかった。それに……いや、いいや。ほらっ」
そう言って彼が投げつけてきたのは、小さな小瓶だった。
「これは?」
「解毒薬だ。フローラには効かなかったようだけど、フローラには惚れ薬をかけた。もしも目覚めたときになにかあったら、真っ先に第三王子に……」
「なっ、なんでそれを早く言わない!」
惚れ薬だと?
「すぐに解かせてもらう! 我々の戦いはもうしばらく……」
「牢の中でおとなしく反省するよ。この国にも恩義はある」
「そうか」
「スチュアート王子」
「ん?」
「気をつけろよ」
あんたを狙っているやつはたくさんいる。
そう聞こえた。
「……肝に銘じるよ」
深呼吸をして肩を竦めると、ゆっくり光のカーテンが夜の空気に混ざって消えていく。
心配そうな面持ちでこちらを見ている第三王子やこの城で宴を楽しんでいた人間の姿が徐々に現れ、彼らの視線を一斉に浴びた。
一瞬の間をおいて、兵士たちによって彼が捕まった。今度こそ、まったく抵抗する素振りは見せなかった。
「………」
彼の言葉を胸に刻む。
油断はしない。
彼女にしてしまったことは、今もこれからも彼女の隣で償い続けていくつもりだ。
邪魔なんて入らせてたまるか。
「ジャ……」
「ご迷惑をおかけしました、兄上」
「スチュアート……」
剣を腰に戻し、振り返ると彼の腕の中で眠る大切な人は未だ目を覚ます様子はなく、ほっとする。
「おまえ……」
「あとは大丈夫です」
ぐっと唇を噛み、笑顔を作った。
「魔女様には、俺がついています。ユリシス様」
胸が張り裂けるほど痛かった。




