呪いのかかった王子様
「だ、第五王子……だと? う、嘘だ……」
一瞬、男が動揺したのがわかった。
なぜ動揺したのかはわからない。それでも、
「な、なんで……こんなところに……」
その様子に、思わず苦笑がもれた。
「なんで……と言われても、一番嘘であって欲しいと願っているのは、わたしだ」
こんなこと、現実であることの方が間違いであってほしい。
「呪われているのは、第三王子だと……」
彼女と呪われた王子の話は王族だけに伏せられていたため、詳細を知るものが少なくても仕方がない。
ましてやあの事件以来、公にでてこなくなった第五王子の存在なんて、だれが想像ついただろうか。
「しっかり訂正させてもらおう。フローラにこの想いを伝えられるのはわたしただひとりだ。兄上だろうがフローラに愛を囁くなど、絶対に許さない」
「は、はぁ?」
「まだ少し、あなたに話す余裕があるのなら、まずは少し話せないだろうか」
「え……」
彼の返答を待つ前に剣を掲げ、呪文を唱えると、剣の先から無数の光が溢れ出す。
それらは鮮やかな色合いに形を変え、順にところどころへ飛び散ってはカーテンが揺れるようにゆっくりと地面に向かって降りていく。
「なっ!」
「ご覧のとおり、わたしは王子である以前にフローラを……魔女様の監視を目的として彼女のもとに遣わされた騎士でもある。そのため、王宮の魔女により魔女に対抗できる力も得ていて、人並み離れた魔力を持つあなたとも互角に戦うことができるはずだ」
まわりの音が徐々に聞こえなくなるのを確認し、視線を戻す。
「隔離された場所であれば、いつでも相手はできるし、遠慮なくかかってこればいい。それでも、無関係なロスターニアのみなさんに迷惑をかけるのは避けたいと思っている」
自分以外にフローラを思う人間なんてすぐにでも消し去ってやりたいと思えるのが本音ではあるが、さすがにこの立場でそんなこと言えるはずがない。
ぐっとこらえて笑顔を作る。
「あなた方がわたしに対して怒りを覚えるのは理解できる。申し訳ないことをしたと思っているし、この身を持ってこの一生を彼女に捧げたいと思っている」
「お、王子のくせに、なにを無責任な……」
「ご覧のとおり、わたしには上に四人も優秀な兄たちがいる。自身の立場はわかっているつもりだ。騎士として、彼らの手となり足となり、もちろん命をかけてでも外側から彼らに協力はしていくつもりだ」
「王位に興味がないというのか……」
「フローラにしか興味がない。……嫌でしょう、こんな責任感のない王子なんて」
信じられないと言わんばかりの表情で、彼はこちらを見ている。
意外といい人なのかもしれない。
「俺は……気が狂いそうだった」
「え?」
「あの森で、彼女が悪くないとわかっていても、苦しくて苦しくて仕方がなかった」
彼が、ぽつりと呟いた。
「どうして、正気を保っていられるんだ……」
「……いや、わたしよりも先に彼女と共に時間を過ごしていた人間がいたことに対して、気が狂いそうだけど」
この男は、かつて派遣された騎士のひとりだというのか。
それならばこの異様なまでに操れる人間離れした力も理解ができた。
「あっ、あんたにかけられた呪いはなんだったんだ?」
彼の頬に大粒の涙が伝う。
「俺にできなくて、なんであんたにできた? なぁ、スチュアート王子!」
「……呪いなど、かかっていない」
「えっ……」
「かかっていないんだ、最初から」
目頭が熱くなるのを感じつつ、負けるものかと無理やり口角を上げた。




