次のダンスはあなたと共に
「ジャドール! ああ、気がついたのね!」
目を覚ますと知らない一室にして、泣きそうな顔の彼女がこちらを覗き込んでいた。
「痛いところはありませんか? 気分はどうです?」
「このまま屈んで口づけてくれたら無敵ですよ」
笑いかけると、少し安堵した表情を浮かべ、「もう、あなたはいつもそんなことばっかり……」と彼女は頬を膨らませた。
いささかだるいが問題はない。
体を起こし、目の前の光景にぎょっとした。
「ま、魔女様!」
彼女の細い右腕には包帯がぐるぐる巻きに巻きつけられていたからだ。
「け、怪我をしたんですか?」
勢いよく起き上がると頭がクラッとしたが、それどころではない。
細い手首をつかむと、彼女が小さく顔をしかめた。
「す、すみません……」
慌てて手を離すと苦笑した彼女は大丈夫だと頷いてくれる。
「ユリシス様が狙われていました。城の所々に魔法陣があちらこちらと張られていて、彼が足を踏み入れたら作動するようになっていたそうです。手違いからか、あなたが被害を被ってしまいましたけど、今、ユリシス様の騎士たちが怪しい人物を追っています」
そこである違和感をなんとなく思い出す。
「まだ、捕まっていないんですか?」
「術者は捕まえたので、主犯格もすぐ割れるだろうとおっしゃってました」
「あなたも、戦ったんですか?」
よく見ると、彼女の白い肌は小さなかすり傷がたくさんできていた。
「ほんの少しです。ほとんど騎士の方が守ってくれて」
「……な、情けない。あなたを守るのは俺だったはずなのに」
「あ、あなたはちゃんと守ろうとしてくれました! あの魔法陣に抵抗して飛び出してこれたのは、あなたくらいです!」
慰めなんて、今の俺には届いていない。
「他の男に……あなたを助けられるなんて……」
「ジャドール」
「……はい」
また呆れられるか、怒られるのだと思っていた。
「ユリシス様が、頃合いを見て、ふたりでダンスでもしたらどうかと言ってくれました」
だが予想はすべて違って、耳に入る言葉に脳が追いつかなくなる。
「えっ……」
「こんな状態ですから、もう無理だと思いますけど……」
頬を染めて俯いた彼女に、伸ばそうとした手が震えた。
「俺と……踊りたいと思ってくれたんですか?」
「……はい」
「ええ? 夢ですか、これは……」
ぷるぷる震える彼女に声がかすれた。
そんなまさか、と思う前にやっぱり愛おしいあまり、抱きしめたくなった。
「あなたがよければ、いつでもお相手をします。俺は、いつでも大歓迎です」
そっと彼女の頬に触れると、ほんのり桃色の頬をさせて彼女が笑みを浮かべたところだった。
そんなときだった。
コンコン、と音が聞こえ、誰なんだ邪魔者は?と思ったものの、ひとりのメイドが水差しを持って入り口の前で一礼をした。




