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魔女に仕える騎士と魔法陣

「ジャドール……様、こちらは不備なしです」


「かしこまりました。……あ、普通にしてください。『様』もいりませんから」


「はっ!」


 若い騎士が元気よく一礼をし、駆けていく。順に配置を移動し、周りの様子を伺っていた。


 なぜ第三王子はここまで騎士を連れてきているのか。


 今更ながら疑問に思った。


「ジャドール!」


 上の方から声がして、光の速さで見上げると彼女がこちらを見てバルコニーから乗り出していた。


 可愛すぎて驚かされる。


 頬を染め、さりげなく手を降ってくれる彼女にまた恋に落ちた。


 彼女が柔らかな笑みを見せているということは近くに人がいないのだろう。


 彼女をひとりにして何をやってるんだと第三王子に苦言をしたい気持ちは山々だったが、ほんのひとときだけ彼女を独り占めできたようで嬉しい。


「中の様子はいかがですか? 退屈ではないですか?」


「はい。大丈夫です」


 問うと彼女はまた花が咲いたように笑う。


「……そうですか。よかったです」


 見上げた彼女はずいぶん遠く感じられた。


「あ、あの……ジャドール……」


「はい」


「ユリシス様が言っていたのだけど……あの……」


 言いづらそうに何かを口にしかけた彼女がはっと顔を上げる。


「なっ、なんで……」


「魔女様?」


「ジャドール! 逃げてください! その、木の……木の影の部分に!」


「えっ?」


 彼女が勢いよくバルコニーにしがみつき、金切り声を上げたとき、気づいたら光りに包まれていた。


「ジャドール!」


「ダメです!」


 足が動かなかった。


 いつの間にか下に魔法陣がえがかれていることに気づいていなかった。


「落ちたら怪我をします。俺は大丈夫ですから」


 バルコニーのふちに足をかけようとした彼女に精一杯の笑顔を作る。


「あなたの下着を見せてくださるのなら、話は別ですが」


「なっ!」


「大丈夫ですから」


 しまったなぁと思いつつも体に力が入らず、重力に逆らえなくなり、膝をつく。


 さて、どうしたものかと見上げると、彼女がドレスの裾を持ち、バルコニーのふちに登り、勢いよく飛び降りたところだった。


「なっ!」


 全身に力が入らなかったはずなのに、その姿を見た瞬間、自然と足が動いていた。


 バチバチバチッと嫌な音がしたが、足元はようやく解放されたように軽くなり、かわりに皮が剥げるのではないかと思うくらい背中に激痛が走った。


「……っ」


 王宮の魔女の術式だと本能で察した。


 俺に危害が及ぶと察知したのか、とっさに想像もできない力をくれた。


 そしてそれにはとても感謝をしたが、それでもこの痛みもそこそこひどいものだ。


 無意識に飛び込んだ先に彼女が降ってきて、全身で受け止める。


 激痛なんてものじゃなかったが、大好きな香りが鼻腔をくすぐり、終わりの時を迎えるのならこのときがいいなと不吉なことを考え、俺はそのまま意識が遠のくのを感じた。



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