舞踏会で騎士は蚊帳の外
「くそっ、何が護衛だ……」
結局、第三王子についた護衛たちは彼の側を片時も離れたことのない優れた者たちで、それ以下の俺たちはそれぞれ指定された場所に配置され、何か合図があるまでは待機となった。
第三王子直々の命令であるなら従うしかない。
ただただ彼女を隣に、舞踏会に参加したかっただけなのではないかとさえ思えてくる。
彼には婚約者だっていたはずではないか。
そもそも、彼女の初の舞踏会が他の男の隣だなんて気が狂いそうだ。
こんな依頼、いつものように捻り潰せばよかったとさえ思えてくる。
見上げれば大きなバルコニーの向こうで優雅な音色が流れ、それに合わせてダンスが繰り広げられているのだろう。
感嘆の声から始まり、談笑したり笑い声だったりと楽しそうな声が聞こえてくる。
王宮にいたときから特に出たいと思ったことはなかったが、このときばかりは中の様子が気になって仕方がなかった。
「ああ、きれいだったなぁ……」
黒いドレスに身を包んだ彼女を思い浮かべたら、乾ききっていたはずの口元がかすかに緩んだ気がした。
第三王子のする決めたことだ。
何か理由がある。
だから、断れなかったし、彼女も珍しく乗り気だったため、反対できなかった。
俺は好きで好きで仕方がないけど、彼女は俺のことを騎士としか思っていない。
こんな風に整えられた場所があれば、本来出会うべきだった人に出会うこともあるかもしれない。
「くそっ!」
らしくもなく弱気な心境でいっぱいになるのは、この光景がかつての暮らしと重なって見えるからだろう。
思い出したくないことも脳裏に浮かぶ。
絶対に、彼女には隣りにいて欲しい。
どんな手を使っても、自分のことを好きにしてみせる。
この一年、彼女と過ごす中で、些細な幸せが積み重なる中で彼女がますます好きで好きで仕方がなくなった。
病的かと思うほど、彼女に対する独占欲も増し、このまま自分以外の人間の前に出なければいいのにと思うことも増えた。
ふたりでずっと、あの地で過ごしたい。
そう思うようになった。
でも、それが彼女の幸せなのかと問われるの、警告を鳴らすもうひとりの俺がいた。
人の痛みを背負った彼女。
人の古傷を見て、自分のことのように涙を流した彼女。
そんな真っ白で心優しい人に、これ以上何を求めるというのだろうか。
彼女が望むのなら、その手を離さないといけない日が来るのかもしれない。
現段階で異性は第三王子を除いて俺しか知らない彼女は、一度は拒絶をするものの強く押せば流されてしまいそうな危うさはある。
俺が必死に懇願したら、なんだかんだで聞き入れてくれるのだろうなと最近は思うことがある。
好きだからこそ、大切だからこそ、その優しさにつけ込めなくなった自分がいる。
「どうやったら、俺を好きになってくれるんだろう……」
何度言えば伝わるのだろうか。
バルコニーの上まではずいぶん遠い。
光と影がくっきりと大きな差を示していた。
騎士では、駄目なのか。
足元で小さな光がパチッと音を立てたような気がした。
それでも俺の頭の中は不安でいっぱいになっていて、それに気づくことができなかった。




