騎士とこれからの在り方
「やぁー!!」
「まだまだ!」
自分は騎士で大切な人の護衛をしているのだと伝えると、俺のことを見張っていたらしい男たちが次々と顔を出した。
思ったよりも多くて内心ぎょっとしたのを隠し、良かったら相手になると伝えると、わらわらとどこからともなく現れた子どもたちが応戦してきた。
「甘い! そこで油断をするとこちらから打ち込まれますよ!」
「そこ、右足に重心を預けて!」
ひとりずつ相手をしていたらだんだん楽しくなってきて、いつの間にか列を作った子どもたちのトレーニング相手になっていた。
「兄ちゃん、本当に強いんだな」
おかげで見張っていた人間たちだけでなく、興味本位で近づいてきてくれる大人たちも増えた。
「師匠に比べたらまだまだですが、大切な人を守るためにもっともっと強くありたいです」
戦場の獅子と呼ばれた師匠をいつか彼女に紹介したいな、などと思い、女にうつつを抜かすなんて鍛えなおしだと殴り飛ばされる未来を想像してぞっとした。
その場に立っただけで突風が吹き荒れ、相対した瞬間に相手を退きたいという心境にさせるという恐ろしい人物だ。
誰であっても忖度することなく、真正面からぶつかって来てくれるところは心から尊敬しているし、とても感謝もしている。
「大切な人というのはあれかい? さっき一緒に歩いていた小さいお姉さんのことかい?」
「そうです」
思わず満面の笑みが浮かんで、まわりも表情を緩めてくれたのがわかった。
「あの方を守るためなら、もっともっと強くなりたいんです」
「か、かっけー!」
「お、俺も強くなる!」
「そうです! その意気です!」
ふと視線を感じ、顔を上げればその先に彼女がいた。
何か物言いたげで、じっとこちらを見ていたが、目が合った途端、パタパタと走って近づいてきた。黒猫の姿はない。
「無事、買い物はできたんですか?」
「え、ええ……ばっちり」
両手に大きな紙袋を抱え、見せてくれる。
「それならよかったです」
見た目より重くはないが、受け取ると両手がふさがり、帰りは彼女と手が繋げないなとほんの少しさみしい気持ちになる。
「行きましょうか」
「えっ! お兄ちゃん、帰っちゃうの?」
「まだ遊んで欲しい!」
男の子たちは口々にそう言い、近づいてくる。
「申し訳ないけど、そろそろ時間です。また会える日までしっかり練習を続けてください」
ええー!っとブーイングが起きるものの、俺の中の最優先事項は彼女なので、彼女の予定が終わればともに過ごすのが当たり前のことなのである。
「ジャドールはいつも人を惹きつける強さを持っていますね」
ぽつりと彼女が漏らし、驚く。
その視線はぼんやりと俺の名を呼ぶ子どもたちの方に向けられていた。
「誰もがみな、あなたを好きになる」
「……あなたも、ですか?」
「わっ、わたしは……」
「好きな人に振り向いてもらえなかったらどれだけ愛想を振りまいても意味がないんですよね」
「ま、また……そんな風にからかって……」
口元に手の甲を添えたということはまた赤くなったのだろう。
荷物を持ってしまったためにあまり近くで顔を見ることができないのが残念だ。
まわりの人たちがニヤニヤとしてこちらを見ていたため、一刻も早く彼女を隠したくなった俺はひどく心が狭い。
「それから、あとで背中は見せてください……」
「えっ?」
「リタから聞きました。今日からはわたしが診ますから」
「いやいやいやいや……だから触られたら俺の理性が……」
「理性を保つためのものなのですよね?」
「……ま、まぁそうなんですが」
ああ言えばこう言う。
最近、少しずつ彼女の芯の強いところを目にすることが増えた気がする。
彼女が黒猫とどんなひとときを過ごしたかはわからない。
黒猫に見せるときと自分に見せる顔が違うため、胸が苦しくなったときもあったけど、彼女がどんどん自分らしさを取り戻してくれたらそれでいい。
「ああー、手を繋ぎたい!」
帰り道。
思わず漏れた本音に、またそんなことばかり言って!と彼女に叱られたのは、俺だけの秘密である。




