王族の命を狙うもの
その足音の人物はすぐにでも姿を現した。
いきなり剣を抜き、大声で叫びながら切りかかってきたのだ。
最高のひとときを邪魔された挙げ句、一生繋がっていたいとさえ願った彼女の手を離すしか選択肢はなく、非常に苛立ちを覚えた。
そんな俺は無敵だ。
一刻も早く彼女とまた手を繋ぎたいという想いがあまりにも先走りすぎて、相手を見極めることなくこちらも容赦なく応戦することとなる。
騎士を目指してからは明けても暮れても血を吐くような鍛錬を繰り返し、なおかつ森に来てからは最高のトレーニング仲間たちと出会えたこともあり、相手の動きはとてもゆっくり流れるように見える。
動きをすべてかわし、剣の柄の部分で思いっきり顔面を打ちつけてしまった始末だ。
できるだけ被害は最小限に収めたかったため、まぁこんなものだろう。
目の前で倒れ込んだ男に情けは無用だと思いながらも再び剣をおさめると、その瞬間にいつの間にか出来ていた人だかりがわっと声を上げた。
しかしながらそんなことはどうでもいい。
「魔女様、怖くなかったですか?」
最優先事項はこの人でしかない。
「まっ……魔女さ……ま?」
隣を振り返ると頬を染めて目をキラキラさせて見える彼女は天使なのだろうか。
近くにいた人たちが取り押さえてくれている様子を横目にもう大丈夫だろうと確信したところで彼女に向き直る。
「ジャドールは強いのですね!」
め、目が……輝いて見えるのは、俺の気のせいだろうか。
「《《あなたの》》騎士ですから」
「頼もしいです」
「………」
抱きしめて連れて帰って閉じ込めてしまいたいくらい可愛いのはどうにかならないものか。いや、二度と外へ出してやれないかもしれないレベルの破壊力だ。
「くっ、くそっ! ふざけるなよ!」
痛々しくも頬を真っ赤に腫らせて威嚇して来る様子はまだまだ罵声を浴びせたりていないのか、ただならぬ様子の彼に再び現実に引き戻される。
「恋人の気が引けそうなので、こちらは構いません。まだこりないようならお相手させていただきますけど」
「王族が! えらそうにするな! おまえらなんか、くたばればいいんだ!」
先ほどもなにやら叫んでいたようだったが、改めて怒鳴られてびっくりする。
「おまえらのせいで、俺らがどれだけ苦しい思いをしているか……考えたことはあるか!!」
「おいっ、やめろ! 殺されるぞ!」
どうやら取り押さえたのは彼をよく知る人間のようで、これ以上無害の人間に危害を加えないように彼にしがみついているのではなく、勘違いをしているとはいえ、無礼を働き、王族に罰を与えられないためのようだ。
「俺は王族ではありません」
それでもこんなにも罵られているところを彼女に見られたくなく、そろそろ反撃を開始してみる。一番口論は苦手だ。
「恋人と過ごすこの一瞬一瞬を大切にするただの男です」
「嘘つけ! その派手な容姿と銀色の髪! 王家の男たちの特徴じゃないか!」
「……あなたが訴えようとしていることは理解しました。しかし、俺に危害を加えても何の解決にもならない」
でも……
「心にはとどめておきます。あなたが体を張ってこうして訴えようとしたことは」
俺になにかできるわけでもないが、王族は何も知らず、ただただ優雅に贅沢にのほほんと過ごしていることは事実だ。
「くっ、くそっ……くそぉぉぉぉー!」
彼は地面に拳を打ち付けて、悲痛な叫びを漏らす。
俺は、これ以上何も言えなかった。




