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万能薬は魔女の接吻

「ま〜じょっさま〜」


 今日は薬草作りをすると部屋にこもった彼女に、ときを見計らって声をかけてみる。


 無理をしすぎてしまう彼女のことを心配だと話し合った結果、休息は取ると彼女も約束をしてくれたのだった。


「おやつのプリンをお持ちしました〜 一緒に食べましょ〜う」


 最近は集中しても聞こえるようにと扉もわずかに開いてくれているため、声がかけやすくなった。


「魔女様のはカラメル多めですよ〜」


 精一杯の明るさで飛び込んでいくと、はっとしたように顔を上げた彼女は、ようやくこちらの世界に戻ってきてくれたのか、俺を認識して小さく笑みを浮かべたところだった。


「ジャドール、いつもそんなに気遣ってくれなくて大丈夫ですよ。あなたの時間はあなたの好きに使ってくださいね」


「魔女様の好きだと言ってくれていたプリンですよ」


「……そっ、それは好きです」


「俺のことは?」


「黙秘でお願いします」


「ええ〜 そこは『好き』でいいのに!」


 などと言いながら、最近は彼女のテリトリーに入れてくれるようになった。


 プリンと暖かいミルクを並べてふたりで床に座り込む。


 彼女の部屋は以前に比べて大きなツボの数が増えていて、今日も近くにいくつか新しいツボを常備していた。


「王宮からの依頼ですか?」


「はい」


「無理は……してないですね?」


「はい。最近、薬草を作ることが楽しいと感じています」


「えっ! そうなんですか!」


 意外だった。


「高度なものはまだ試作段階ですが、わたしが作ったもので助かったよ、と言ってもらえるのは嬉しいことです。もっと騎士のみなさんが活動するうえで便利だと思ってもらえるものを作っていきますね!」


 珍しく饒舌に話し出す彼女に驚いた。


「ジャドールも必要なものがあれば言ってくださいね。あそこの青いツボには傷薬の元を入れてあります」


「げっ……」


 数ヶ月前に体験した激痛を思い出して絶句した。


 目を疑うほど効果はあり、ぱっくり開いた傷口さえ跡形もなく消えてしまったほどだったが、気が狂うかと思うほどの激痛で三日間ほど涙が止まらなかったため、あまりの痛さに鎮痛剤として彼女にしがみついて行動するしかなかった。


 彼女も散々迷惑していたようで、もっと他の罰を考えなくてはと繰り返していたのを覚えている。


「本当はポーションとかも作れたらいいんですけどね」


「ポーション?」


「万能な薬ですよ。祖母ならできると思うのですが、祖母にはこうしてまた薬草を扱い出したことを伝えていなくって」


 深くは聞いていなかったが、この話題については彼女は彼女なりの考えがあるのだろう。だからなのか、表情を曇らせた彼女は俺の前で大きな失言をした。


「万能なのは魔女の接吻ですが、同じ効果のあるものがあれば助かるんです。魔女だけではいざというときにひとりで全てに対応するわけにもいかないし……」


「却下!」


「え?」


「どんな場合においても俺以外にはその対応はしなくていいですから!」


「えっ……あっ!」


 我に返ったのか、しまったという表情を見せて赤くなるももう遅い。


「誰彼構わず接吻なんてしに行こうものなら俺が絶対に許しませんからね!」


 そんなの冗談じゃない!


「し、しにいきませんよっ!」


「かっ、考えただけでも気が狂いそうです」


「考えないでくださいっ!」


 もはやプリンが美味しいどころではなくなり、結局早々に部屋から追い出されることとなるのはこのあとすぐのお話だった。

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