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騎士が守りたいのは魔女ひとり

「モフモフ、何かあったら魔女様だけでも乗せて全力で逃げてくれ」


 ふよふよと肩のあたりを飛んでいるモフモフに声を掛けると珍しく「キュー」っと力強く鳴いたため、頼んだ、と頭を撫でる。


「ジャドール……あなたはまた」


「わかってください。大切な人を守れないような男にはなりたくない。……すみません」


 言いかけて、あまりにも感じが悪かったなと反省し、振り返ると頬を膨らませた彼女がこちらを見ていた。


「第三王子に言われたことがあまりにも的を得ていて、ムキになってしまいました」


「余裕のないあなたは初めてです」


「……そうですね」


 こればっかりはどうにもならない。


 あの人が現れたら、きっといつでも我を忘れかける自覚がある。


「わたしは、完璧でないあなたも好きですよ。むしろそっちの方がいいです」


「えっ?」


「人間らしくて親しみがわきます。いつもあなたは完璧で隙がなさすぎるんです」


「す、好きって……」


「ひ、人としてってことですよ!」


「それでもいいです。もう一度言ってください」


「もっ、もう言いません!」


「ええ、どうして!」


「どうしてもです!」


 第三王子の言う通りなんだ。


 守らなきゃいけない笑顔がある。


「正直なところ、俺は他人はどうでもいいんです。あなたさえ安全な場所で無事で快適に過ごしてくれたら……」


「黙ってください」


「でっ、では、他の騎士たちに今の現状を確認しにいきます。……行き……ますよね?」


「もちろんです。連れて行ってください」


 普段からこのくらい積極的なら嬉しいのに、と内心ベソをかきながら彼女を連れて騎士たちのもとに向かう。


 村の人たちは誰もいない。


 避難をしているのか、結界を張られているのか定かではないが、静かなものだ。


 被害があった場所といえば、西側に見える木々が立ち並ぶ部分だろうか。一部だけ違和感のある跡がある。


 あたりを確かめながら前に進むと、隣で何かブツブツ呟きつつも、置いていかれないように彼女もちょこちょことついてきた。


 抱きかかえて逃げたいと思うのをぐっとこらえ、前方でまわりの騎士たちに指示を出している男に声をかけた。


「ハルク!」


「隊長!」


 明るい金髪の男が振り返る。


「ここでの隊長はおまえだろう。状況を教えてほしい」


 はい!と声を張り上げ、ハルクと名乗る男は表情を一切崩すことなく淡々と今までの様子を告げ始める。


「相変わらずだな」


「え?」


「正確でとてもわかりやすい」


 クソ真面目で曲がったことが大嫌いな彼は俺が王宮にいたときは別の隊の一員として活躍していた。


 華やかな容姿とは裏腹に冷静沈着。人付き合いが苦手で融通がきかず、それでいて仕事に不備はなく、自分にも他人にも厳しい。


 そんな彼のことは気に入っていた。


「いつどこから現れるかわからないのは厄介だな。誰かに操られていると思うか?」


「人の手で作られたものであることは間違いないでしょう。ここは結界が張りづらいです。なにか、他の力が絡んでいる気がしてなりません」


 騎士の張る結界では弱いというのか。


「術が発動しています」


 隣りにいた彼女がすっと両手を掲げ、口を開いた。


「ここは、異空間です」

 




 

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