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ドラゴン退治の正しい心得

「しばらくは騎士たちに任せて少し離れたところから見ていてくださいね。絶対ですよ」


「絶対に危ないと判断したら、自分のことだけを考えてすぐに逃げてくださいね」


「俺たちは騎士なので、ある程度のことには耐えられます。とにかく、ご自身のことを第一に」


 戦闘準備をしたということで、いつものローブに大きなカバンを下げ、現れた彼女の髪を結いながらついつい同じ言葉を繰り返す。


「もしものときは騎士ごと攻撃してくれて構いません。とにかくあなたは……」


「ジャドール、わたしは魔女です。あなたが思うほど守られるだけの人間ではありません」


 おかげで彼女も呆れた表情のままこちらに視線を向ける。


「あなたを危険に晒すかもしれないと思うと、俺が嫌なんです」


 彼女に傷一つでもつけようものならのんきに指示だけを下した王宮にだって……


「ジャドール、信じてください。大丈夫ですから」


「………」


「あなたのことも守るつもりで立ち向かうつもりです」


「……可愛いことを言えば俺が引き下がると思わないでくださいね」


「おっ、思ってません!」


「今すぐ閉じ込めて出したくないのが本音です」


「絶対にやめてください」


「無茶だけはしないでください。約束ですよ」


 しぶしぶではあるが、結界を解き、移動をするために控えてもらっていたモフモフの側まで行き、彼女を抱き上げる。


 普段は距離を縮めるとすごく嫌がるくせに、このときばかりは慣れてくれたのか抵抗なく腕を回してくる。


「万が一、あなたが怪我をしたら、半殺しにした竜を王家に解き放ちます」


「物騒でこの上なく不謹慎なことを言うのはやめてください!」


「最低でも怪我したところすべてに口づけをしますから、覚悟をしてくださいね」


「……あなたはいつもそればかりですね」


 軽蔑した瞳で睨みつけるかと思いきや、彼女は口元に手を当ててクスクス笑った。


「ジャドール、あなたもですよ」


「俺の怪我にも口づけてくれるんですか?」


「そうしたら、あなたの傷は増えそうなので絶対にしません」


「……否めません。でもご褒美はほしい」


「大丈夫です。即効性はあるけど、悲痛の叫びが上がるほど苦痛な薬草をたっぷり塗りつけてあげますから」


「げっ!」


「だから無茶はしないでくださいね」


「……連れて行きたくない」


 ぐっと抱きしめるも、彼女の意志の強さは知っている。飛びます、とだけ伝え、モフモフの背に飛び乗る。


 きゃっ、と小さく悲鳴を漏らし、俺の胸にしがみついてくるこの大切な人を危険だとわかっていて竜のもとへ連れて行くのは本当に嫌だ。


 うじゃうじゃとデリカシーのない騎士の男たちのもとへ連れて行くのももっと嫌だ。


 憂鬱な気持ちを抱える俺とは裏腹に、今日は機嫌がいいらしいモフモフはすぐに浮かび上がり、最も行きたくない目的地に向かうことになった。


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