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騎士の弱点と強み

 ああ、またこの時間がやってきた。


 そう思わずにはいられない。


 漆黒の闇の中を蝋燭の明かりを頼りに前へ進む。


 慣れ親しんだ渡り廊下が永遠に感じる。


 ミシミシと音が鳴っているのではないかと思うくらい両膝が痛む。激痛だ。


 横になるとさらに激痛が襲ってくる気がしてなかなか寝付くことができない夜が続く。


 兄さんたちに聞いても、時期が来たら治る!などと全くもって参考にならない回答しか返ってこず、今のこの状況でここが狙われたら……と気が気でない俺としては苛立ちが募るばかりだった。


 わかっている。成長期だ。


 兄さんたちに比べて成長が遅かった分、待ち遠しかったはずなのに待ち望んでいたのは今ではないことは確かだった。


 それでもここが狙われようものなら足を失ってでも戦う覚悟と気力だけは合わせている。


「はぁ……」


 足音を立てないよう気をつけ、調理場へ向かう。


 抜き足差し足と、絶対に見られたくないほどの情けない姿だ。


 風の音ひとつ聞こえない夜のため、絶対に彼女を起こしてはいけない。


 ミルクを温めて一息つく。


 これを飲んだらもう一度横になろう。


 眠れなくても目さえ閉じれば多少の疲労回復にはなる。などと言い聞かせるも絶望的な気分だ。


 唯一心に光を灯してくれるのは、ホックにかかる花柄のエプロンだ。


 俺が着るには可愛すぎる気もするが、彼女が俺のために初めて贈ってくれた大切な大切な宝物である。


 触れるだけでにやけてしまう効果がある。


 さらには彼女が身につけたところを想像して……


「ジャドール」


「えっ……」


 小さく扉が開き、ローブを身につけた彼女が姿を現したところだった。


「まっ、魔女様! す、すみません、い、今のは……」


「眠れないのですか?」


「えっ?」


 良からぬ妄想をしかけたことに対して叱られるものだとばかり思っていたが、どうやらそうでないらしい。


「足を見せてください」


「ええ?」


 躊躇なく跪き、俺のズボンの裾を勢いよくめくり上げようとする。


「ちょっ、待って! おっ、お誘いにしてもあまりにも急すぎます!」


 さすがに王宮の魔女に殺されるか、その前にあの満月の黒猫様に八つ裂きにされるか……どちらにしても悲惨な未来しか想像ができない。


「これは、さすがに……いえ、あなたが望んでくれるのなら俺は問答無用に血まみれの未来を選ぶしかないのですが……」


「ふざけないでください。あなたが毎晩苦しんでいることはわかっているんですよ」


 ひんやりとした小さな手は遠慮なく俺の足に触れてくる。


「………っ」


 成長するのにこんなにも苦痛が伴うなんて聞いていない。


 それに、彼女にバレていたなんて、我ながらなんて詰めが甘いのだろうか。


 じんわりと痛む両足に恨みも込めて唇を噛むと不覚にも涙が出そうになった。


「熱は引き受けました」


「えっ!」


「あとは、少しこのままでいてくださいね」


「ちょっ!」


 赤くなった両手を掲げながら、彼女はそのまま背を向け、自室に駆けていく。


「まっ、待って! 魔女様、熱って? ど、どういうことですか! あなたが苦しむのなら俺はこのままでもいいです! 返してください!」


 追いたくても一気に力が抜け、情けなくも座っているのが精一杯だった。


 生きた心地がしない。


「魔女様っ!」


「もう少しの我慢ですよ!」


 全く俺の言葉も聞かず、大きな壺を抱えた彼女は戻ってくるなり中に詰め込んであったクリーム上の薬らしきものを丁寧に塗ってくれた。


「早くよくなぁれ」


 触れられたところが今までとは違う優しいぬくもりに変わる。


 小さく呟かれた言葉に泣きそうになった。



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