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初のお給金と魔女の提案

 いくつか服を試してみて気づいたのは、いつの間にか夏よりも五センチ以上背が伸びていたということだった。


 足が痛くて眠れない夜もあったし、成長期ではあることは自覚していた。


 改めて考えてみてもまだまだ止まる兆しがないような気がして、またすぐ買い替えないといけないのなら買いだめをしておく気にもなれないのが本音だった。


 なにより、買い込みすぎて両手が塞がって彼女と手を繋げなくなるのも嫌だ……なんて言ったらまた怒られそうなものだけど、彼女は彼女でなにかを鏡に合わせてみていた。


「欲しいんですか?」


 鏡の向こうで目が合うと、はっとしたように彼女は振り返る。


「一緒に支払いますから欲しいものがあれば、持ってきてくださいね」


「……あの」


「ん?」


「どちらがいいですか?」


 おずおずと見せてくるのは二枚のエプロンだった。


 彼女の瞳の色をした淡い灰色と夜を連想させる藍色だ。


「なっ! どちらも素敵です!」


 エプロン姿を想像して自分の語彙力が追いつかないことを自覚した。


 ご、ご褒美なのだろうか。


 これらを着てくれると言うのだろうか。


 それならば……


「どうせなら、その花柄の模様も好きです」


 ちゃっかりリクエストは忘れない。


「い、意外です……」


 赤と白で大きな花模様を描くエプロンを片手に瞳を丸くする彼女は、こういう色を試したことがないのかもしれない。


「たまにはそういう柄もいいと思います」


 いつもは真っ黒なコーディネートだけど、絶対に明るい色も似合うと思うのだ。


 黒色は魔女としてのテーマカラーかもしれないため、あまり深くは追求してはいけないとわかっているが、見られるものならイメージの違う彼女も見てみたい。


 室内でならいろんな色を試してみるのもいいと思う。


「わかりました! これにします!」


 彼女は嬉しそうにそれを眺める。


「絶対似合うと思います」


 薬草の調合の時に使用するのであれば、毎度だって入り浸って見に行きたいものだ。


「では、支払ってきますね」


「あっ、いえ……」


「えっ?」


「これは、わたしが自分で購入したいんです」


 初めてのお給金がいただけたので、と小さな巾着を見せてくる。


 あの彼女をボロボロにした薬草作りかと思うと今すぐにでも王宮に殴り込みに行きたかったが、こんなにも誇らしそうに自分で作ったという実績を噛み締めているのであればよかったのかもしれないと思えてくる。


「すごい! あなたの頑張りがこうして形になったのですね。素晴らしいです」


「そ、それほどのことはしていませんが、嬉しいです」


 彼女はできる人だ。


 こうして少しずつ、本来持っていた可能性を発揮していくのだろう。


 少し淋しい気もしたけど、叶う限りできるだけ長く隣で見ていたいと思った。


 彼女はいずれ気づくはずだ。


 いつまでも囚われているということの違和感と、見張りの騎士が不要なことに。


 本気で逃げようと思えば難なく逃げ出せるということに気づく日が来るだろう。


 彼女が決めた途端、全てが終わる。


 全力を出してもきっとそのときは敵わないのだろうなと思ったら、悲しくなった。


「ジャドール……」


「はっ、はい!」


「よかったら、何かご馳走したいのですが」


「へっ……」


 いいでしょうか?と覗き込まれて腰を抜かしかけた。


「あなたには普段からとてもお世話になっているし、それにわたし……」


「も、もももももももももちろんです!」


 即答である。


「あなたと共にできるのならどこへでも!」


 いつまで共にいられるかわからない。


 それでも側にいたい。


 あなたが許してくれる限り。


 そう願わずにはいられない。

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