魔女の住む森
驚いたのは、噂に聞いていた通りのどんよりした空の下に突然琥珀色の湖が現れ、その先に小さな小屋が見えたことだ。
そこだけ空間が歪んでいるように思えた。
馬を降りたら橋のそばで必ず馬を括り付けろと言われていたが、ここまで頑張ってくれた馬をこの場所でずっと待機させておくわけにもいかず、そのまま離してやると馬はもと来た道を駆けていく。
ぞっとするほど音もなく駆けていくその様子を眺めながらも覚悟を決めた俺は再び橋の前に立ち、必死で暗記してきた言葉を唱え、剣をそこにかざす。
この儀式ができてこそ、騎士の証だ。
心を乱すことなく唱え続けた言葉の先に、徐々に徐々にと色を失っていく湖が見えた。
まるで色がその場で溶けているようだった。
橋の向こうに見える黄ばんだ世界の色が変わるのが目に入り、思わず口角が上がる。
結界が解けたことを悟った俺は、躊躇なく橋を渡って小屋は向かった。
ドアに手をかけ、ありったけの声を出す。
「遅くなりました! 魔女様!」
これは、俺が騎士として認められた十五歳の春の出来事。
そして、あの人を守ると決めた。
大切な日になった。