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騎士たちの掟

 呪われた森に派遣され、罪を犯した魔女を監視する騎士はみな、体内にある術式を施されていた。


 魔女に危害を加えないこと。


 彼女と生活を共にする上での絶対条件だった。


 彼女になにかあれば、その術は発動する。


 彼女が嫌がることもそのひとつだ。


 どこまでが許容範囲内で発動させてしまえば何が起こるのか、そのあたりについては他の騎士から聞いたことがないため詳しくはわからなかったが、俺も例に及ばず術式を施されたひとりだった。


 過去の彼女を知っている俺は、他の人に加えて彼女と関わった過去のことを口にできないという最悪のプラスアルファも加えられているがほとんど他の騎士たちと同じ術式なのだと思う。


 俺の背中には、大きな紋章が刻まれていた。


 術式の証しだ。


 解くことができるのは魔女の力を持つものだけだ。


 おまえがすることではないと両親は最後まで反対をしていたが、俺は気にすることなく、その儀式を受け入れた。


 それは、お互いに危害を加えないため。


 もちろん、俺たち騎士も守られている。


 魔女の力に抗えるようになっているのだ。


 魔術もそれを使って作られたものも、今の俺には効果がゼロに等しい。


 効いてしまうのであれば、相当精神的にやられているか、それくらい魔女の力が強くなったかのどちらかだ。


 今回は確かにくらっとはしたが、理性は保ったままでいられる。


「魔女様、ずっとあなたのそばにいたいです」


 漏れた言葉は本音だった。


「ど、どうして……」


 震えるその声が真実を物語っていた。


「あなたのそばにいたい」


 何を使ったかはわからない。


 でも、彼女が俺を操ろうとしたのは事実だった。


 どうでもよくなった。


 すべてのことがどうでもよくなりかけた。


 日々を共にする中で愛おしいとさえ思える彼女に対して、ほんの一瞬、ほんの一瞬ではあるがかわいいと思えなくなった。


 術式がなかったらどうなっていたかわからない。


「あなたに触れると元気になれます」


 顔を上げ、大げさに笑ってみせるとポカンとした彼女と目が合った。


「たまにはこうして、元気を分けてください」


 彼女と生きる上で、何も気づかないことを肝に銘じる。


 知らなくていいことはたくさんあるのだ。


「あなたが好きです」


「……っ、なっ! またそんなことを! あなたはいつもそう言いますが、あっ、会ったばかりではないですか!」


「もう半年になります。共に暮らしていればあなたに心惹かれないはずがない」


「なっ、何を言っているんですか!」


 真っ赤になって反論してくる彼女はいつもどおりの彼女で、興奮しているからか、大きな瞳から涙がポロポロこぼれ落ちる。


「大好きです」


「……もうっ」


 どうしてそうなるんですか、と顔をぐちゃぐちゃにする彼女にじわじわと愛おしい気持ちが戻ってくる。


 頬を流れる涙にそっと唇を押し当てると彼女のぬくもりが伝わってくる。


「信じてくれるまで、こうします」


 ようやく、感覚が戻ってきた気がする。


「し、信じます!」


 確認をするように唇を再び寄せると震え上がった彼女に全力で阻止されることとなる。


「信じます! 信じますからっ!」


「もう少しくらい楽しませてくれてもいいのに」


「む、無理です! 離してください!」


「あとちょっとだけ」


「む、無理です!」


 彼女が泣きながら喚くものだからもちろんこれ以上何かできるわけでもなく、それでもまた表情を見せてくれるようになった彼女にほっとした。


「泣かせてすみません」


 もちろん、いつかは笑わせたい。


 こんな荒療治ではなくて、心の底から楽しいと思ってほしいのだ。


 お茶会を再開しようと提案すると、こくりと頷く。


 今はこれで十分だ。


 改めてお湯を取りに向かう俺が背を向けたとき、こっそりカップの底を眺めて首をかしげた彼女に俺が気づかないはずがない。


 だけど、俺は何も見ていない。


 知らなくていいことはたくさんあるのだ。







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