勘違いと仲違い
『ご、ご一緒されるのなら、わたしのことはお気になさらず……』
あちらで待っていますから、と呆然とした様子で彼女が無機質な声を発したときは血の気が引いた。
最も最悪なひとときだったように思う。
『じょっ、冗談じゃありません。あなたが最優先事項です!』
まさにもらい事故だ。
はめられたのかとさえ思えた。
何を言っても言い訳にしか聞こえないだろうなと自分でも思いつつ、同じ言葉を繰り返した。
『最優先すべきは、あなたです』
それからは周りを見れず、彼女しか見えなくなった。
『ごめんなさい。わたしのせいで、自由にできませんね』
と謝る彼女に絶望した。
「なっ、なんでこんなことに……」
帰宅後すぐに閉ざされた扉を見て、めまいがした。
あのあと彼女が見せたのは、明らかな拒絶だった。
周りなんてどうでもいい。
まだなにかブツブツ言っている周囲を気にすることなく彼女の元へ駆け寄り、彼女だけに集中する。
なんでこんなに焦っているのだと自分でも虚しくなりながら、ただただ彼女の機嫌を伺う。
彼女の口数が明らかに減ったのは明白だった。
「何か欲しいものはあるか」と聞いたときだけ無言で熟考した後、薬草が欲しいと彼女はぽつりと呟いた。
「必ずいつかお返ししますから」と申し訳なさそうにしながらも見たこともない形をした薬草をいくつか購入することを希望した。
思ったよりもどの物価も安価だったため、気持ちを大きく持った俺は入り用のものを買い込んだあと、お茶でもしていかないかと誘ったが、そんなに贅沢はできないと断られてしまった。
自分はそんなことをしてもらう立場の人間ではないのだと。
ここに連れてきてもらえただけで満足しているのだと。
それから彼女は帰るまで一言も話さなくなってしまった。
また二度と話してもらえない期間がやってくるのかと思うとぞっとした。
悶々としながら実りのない庭先の手入れを行う。何かせずにはいられなかった。
こんなはずではなかったのに。
かすかに頬を綻ばせてくれていた午前中のことが嘘のようだ。
まさかとは思うが、彼女の中でなにかよからぬ誤解でも生まれたのだろうか。
こんなことならうっとおしがられる覚悟で彼女の買い物についていけばよかったと悔やまれてならない。
一向に芽が出そうにない土をいじりながら自分でも驚くほど大きなため息が出た。




