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魔女の弱点と薔薇色の空の旅

「魔女様、今日もいいお天気ですね」


 気づけばいつの間にか灰色の空は姿を消し、日中は青空が広がり、夕方になると赤々とした夕日があたり一面を照らすようになった。


「さぁ、行きますよ」


 モフモフとして不思議な生き物を前に「しっかり掴んでください」と言うと、彼女はそっと俺の脇の部分に手を添える。


 空を飛ぶなんて初めての試みのため、どうすべきなのかと手探りではあるものの「出してくれ」と生き物に声を掛ける。


 言えば浮き上がってくれるものなのかと思いきや、生き物はボブン!と羽を広げたものの、一向に飛び上がろうとはしない。


「おーい。準備はできているから出発してくれ」


 何度か声を掛けるも、ふよふよと浮かび上がることはしてもすぐにまた着地をし、なかなか動かない。


「……おーい。って、わっ!」


 まさかこの生き物では移動ができないのか?と思い始めてまもなく、突然モフッと息を吐き出し、その反動で一気に上空へと舞った。


 あまりにも勢いがよかったため、危うくバランスを崩しそうになり、慌てて彼女を支えようとする前に、「きゃっ!」と声を上げた彼女にしがみつかれて俺の世界は薔薇色と化した。


 ああ、なんて世界の色は美しいのだろう。


 初めて空を飛んだ気持ちさえも吹っ飛んで行きそうな心地だった。


 ダメだダメだと深呼吸をし、改めて前を向く。


「風が気持ちいいですね」


 冷静に景色を眺め、思わず声が出た。


 遠くの山が青々して見える。


「すごい! ここからの景色は絶景ですよ~! ほら、街も見えてきました」


 わずかではあるが、街が見えてきた。


 ガクガク震えている彼女にもう大丈夫であると声をかける。


「あそこが俺たちの向かっ……」


「きっ、きゃぁぁぁぁあ!!」


「えっ!」


 初めて聞くような金切り声を上げ、さらにきつく腕を回されてしまっては俺としても何も言えない。


 彼女は高いところがきらいなのか?魔女なのに?などと思考を巡らせながら、彼女のためにも一刻も早く着いてほしいと思う気持ちともう少しこのままの状態を味わいたいという二つの気持ちで揺れながらも目的地を目指すこととなった。


 彼女は腰を抜かしてしまったようで足に力が入らず、しばらくは俺が抱きかかえて移動をすることになる。


「ご、ごめんなさい……」


 胸元で顔を覆ってもじもじされると何とも言えない。


「すっ、すぐに立てるようになると思いますから」


「役得です」


 可愛くてたまらない。


「なんならずっとこのままの移動でも……」


「す、すぐに直りますから!」


 きっぱり言い切られてしまってはこれ以上何も言えない。


 同じ国内とは言え、服装や言葉などで不審に思われないかいささか心配はあったもののこの土地は意外と異国の商人たちも多いようですんなり受け入れられたようだった。


 足を踏み入れた途端、あれも安いよこれもいいよ!とあちらこちらから声をかけられる。


 こうして俺たちは、無事初めての買い物に出かけたのであった。

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