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たとえこれが呪いであっても

『森に住む魔女は恐ろしい』


『人を恨んでいて、目が合うと呪われる』


 何度だって聞いた言葉がある。


 王宮にいたとき、狂ったように喚き散らした騎士がいることを知っている。


「俺は騎士です。怖いものなどありません」


「わ、わたしは……あっ、あなたよりも……つ、強いです」


「そ、そうでしたか」


 なおも必死で主張してくる彼女に、にやけるのを我慢した俺を誰か褒めてほしい。


「ほ、本当です! わたしは凶悪な魔女なんです! あなたの元気だって、どんどん奪っていく」


 今までの日々が嘘のように彼女は止まることなく言葉を並べる。


「奪う必要があるんですか?」


「え?」


「俺の元気を奪って、あなたに何か利点があるんですか? 体力はある方です。それであなたが喜ぶのなら、奪ってくれても問題ないです」


「なっ!」


 いつもは見られない様子に、どちらかというとさらに胸が弾んでテンションも爆上がりしている気もするけど、彼女がその必要があるのなら俺はそれでも構わない。


「怖くないですよ。あなたがここから出ていきたいのであれば、俺を倒して出ていってくれればいい」


 俺は、ここへ来て、彼女を守り、監視するために遣わされた騎士である。


 もちろん、ここを去ろうとするならば俺を倒す必要がある。でも、


「あなたのいうとおり、俺はあなたに敵わないでしょうから」


「そ、そんな……そんなつもりは……」


「怖くないです。俺はあなたに初めて会ったときからあなたが大好きですし、あなたのために何かできるのなら喜んでしたいと思っています」


「に、逃げるつもりはありません」


 どうしたら伝わるのだろうか。


 添えた頬に涙が伝う。


「あなたを操りたくないんです」


 苦しそうに表情をくもらせた彼女は、それでも逃げようとしなかった。


「他の騎士たちもあなたを好きになりましたか?」


「なっ、なってません!」


「それなら、俺だけですか」


「なっ!」


「それはそれで嬉しいですね」

 

 そのままそっと抱き寄せると「ち、ちがっ!」と彼女は大いに動揺していたけど、すぐに声を殺して泣き始めた。


 何か呟いていたようだったけど、俺には聞き取れなかった。


 怖いはずがない。


 怖いとなんて、思ったこともない。


「思ったより早く、相思相愛になれたとあなたのおばあさまに報告できます」


「や、やめてくださいっ!」


「違うんですか?」


「ち、違います……」


 呪われていたって構わない。


 深く深くそう思う。


 あわあわしつつも、普段とは違う表情を見せ、俺の腕に収まっている小さな小さな魔女の女の子。


「俺を心配してくださってとても嬉しいですよ」


 泣かせたくはないけど、いろんな表情が見てみたい。


「でも、大丈夫ですよ。俺だってあなたが思うほど弱くない。俺のことはあなたが気に病むことはない。必要なときはこうしますし、あなたが望むならもっと……」


「なっ、何言ってるんですか!」


 馬鹿だとは思う。


 わざと煽っては彼女を困らせる。


 だけど、頬を染めてこちらから目をそらす彼女の様子は以前と比べてずっといい。


 もっと触れていたかったけど、さりげなく力を緩めるとさっと彼女は離れ、警戒するように自室に飛び込んでいった。


 これで十分だ。


 踏み込みすぎるなと忠告は受けていた。


 仮にも彼女は魔女で、鍛え上げた騎士とはいえ俺は普通の人間なのだからと。


 何が起こるかわからないからと。


「怖いなんて冗談じゃない」


 空になった食器を重ね、思わず言葉がもれた。


 怖いわけがない。


 好きなことが知れただけで有頂天だったし、声を聞けたら舞い上がる思いだった。


 もっともっといろんなことが知りたい。


 前向きな興味なのだ。


 もっともっとあなたを知って、あなたとこうして少しずつ思い出を綴っていきたいだけなんだ。


 この想いが彼女に届くのはいつだろうと思いつつも、このあとの俺は何をやっても無敵で好調だった。

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