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食後は甘いデザートを

「魔女様、お口に合いますか?」


 永遠と眺めていられる自信はあるけれどもじっと見つめているばかりではまた嫌がられてしまうだろうなと声をかけてみる。


 言葉を交わさずともこうして同じ時を共にできるなら本望だ。


「………」


 いつもの通り無言を貫くかと思いつつ、予想外に彼女は顔を上げ、こくりと頷いた。


「………えっ!」


 目が合う前だったため、ほんの一瞬だったけど、俺が見逃すはずもなく……その破壊力の高いこと高いこと。


「!!!」


 聞いたのは俺だったにも関わらず、驚きすぎていつものように笑顔を作るのを忘れた。


「あ、おいしいですか?」


 言葉を失ってどのくらい経っただろうか。


 慌てて言葉を繋ぐと彼女はもう一度小さく頷くのが見えて、失礼ながら目を疑った。


 彼女の手に握られたスプーンには新作のポトフが山盛りにすくわれていた。


「おっ、お気に召したようでよかったです!」


 自分でも驚くほど声が弾んでいた。


「実は俺もその食べ物を口にしたことがなくって。野菜をふんだんに使った料理のレシピを送ってもらったから作ってみたんですが、味に自信がなかったんですよ。俺、味が良くわからなくって。ある程度のものはなんでもおいしく食べられるんですよ。でも、あなたのお気に召したなら本当によかったです」


 まくし立てるように続けた俺に彼女をまた怖がらせたに違いない。


 それでもこれからもポトフという料理を作っていこうと意気込んでしまったほどだった。


「俺はきっと味覚音痴なんです。多分これが美味しいのだろうなと思うのですが、何でも食べられます。ですが、他の方はそうではないので心配していました」


 もっと、彼女の『好き』を知っていきたい。そう思った。


「お恥ずかしい話で、野営のときだって他の騎士たちが違和感を感じた食材も俺だけ気にせずひとり食してしまって、しばらく体調不良で数日苦しんだこともあるんですよ。って、失礼しました。こんな話、食事中にするものではありませんね」


 さすがに調子に乗りすぎた。


 すみません、と席を立ち、反省しつつも奥に置いた赤い果物に手を伸ばす。


「……か?」


「え?」


 皮をむこうとナイフを取り出したとき、後ろの方からか細い声がした。


「わっ、わたしが……」


 驚いたのは、彼女がこちらを見ていたからだ。


「わたしが、こっ、怖くないんですか?」


 発せられた声は震えていた。


 ようやく聞けた彼女の声に喜ぶ暇もなく、また驚きすぎて、あんぐりしてしまっているのだろうな、と自分でも思う。


「こ、こわい?」


 考えるよりも先に繰り返していた。


「怖い? あなたが?」


 何を馬鹿な……と、向き直ると彼女は困惑したようにビクッとして下を向く。


「可愛いの間違えではないでしょうか」


「えっ……」


「全然怖くなどありません」


 そっと近づくとふるふる震えているのだ。


 彼女には申し訳ないが、目に見える光景は愛らしい以外の何物でもない。


「あなたこそ、俺が怖がらせてしまって申し訳ないと思っています」


「わ、わたしは恐ろしい魔女です……」


 振り絞るように彼女は言う。


 膝下でぎゅっと握った手首が色を変えている。


「ひ、人の心を操れます」


 彼女の前に跪くと、長い髪の向こうで彼女が唇をかみしめているのが目に入った。


「俺があなたを可愛いと思い、できることなら今、あなたを抱きしめたいと思うのは、あなたの意志ということですか?」


「えっ!」


「操られたのであれば、従います」


「ちっ、ちがっ!」


 彼女の手に触れると、目の前で凄まじい勢いで飛び上がり、今にも湯気が上がりそうなほど真っ赤な顔になっている彼女に自然と笑みが浮かんだ。


「怖いのは、あなたが無自覚ということだ」


 思わず漏れた言葉は、彼女には聞こえなければいいのにな、などと思った。

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