王宮での新しい朝
コンコンコン、とノックをするとまずは侍女が顔を出し、満面の笑みを浮かべているであろう俺が立っている姿を見ると慌てたように頭を下げる。
「大丈夫だ。楽にして。……フローラは?」
「奥に……魔女様といらっしゃいます」
もともとその報告は受けていたため知っていたが、一応この場所で王宮の魔女が休息しているため、断りを入れて入室する。
あれからフローラは今までの溝を埋めるように魔女のそばに通い、珍しく生き生きと会話を繰り返していた。
それだけでは飽き足らず、彼女は自身が与えられた部屋ではなく、王宮の魔女の滞在している部屋で寝泊まりすることも少なくなかった。
「おはようございます」
奥に進んだ先のもうひとつの扉の前で侍女が俺の訪れを報告したため、続いて同じように挨拶をする。
「良いお天気ですね。ゆっくり休めましたか?」
どれだけ完璧に作り上げた笑顔を見せても彼女たちには通用しない。
「あーあー、言わんこっちゃない。また王子様がわざわざ来てくれたじゃないか」
「えっ! なっ! ど、どうして……」
隠すことなく迷惑そうな表情を浮かべる王宮の魔女とすぐに頬を染めたフローラの態度が対極的すぎて面白い。
「どうしてって、あなたに挨拶をしにきたのですよ、フローラ」
「は、早すぎます! いつもはもっと遅く……」
「一刻も早くお会いしたかったんですよ」
それもそのはず、フローラとふたりで森の奥に住んでいた頃は毎朝すぐに会えたというのに王宮に戻ってきてからなんやかんやと妨害が加わり、なかなか会うことが叶わない。
下手したら一日中、兄上たちの持ってきた雑務を押し付けられたりして、フローラに会えない日だってある。
そんな日は気が狂ってしまいそうになるのだけど、だからこそこうしてゆっくり時間が取れる朝をしっかり堪能しなくてどうする。
「フローラ、朝の挨拶を……」
「し、しません! しませんよ、こんなところで……」
「こんなところだって?」
「な、何でもないわ。おばあちゃんは黙ってて!」
フローラが何をいいたいのか察して吹き出してしまいそうになるのをこらえながら、俺は平然と続ける。
「フローラ、お散歩に行きませんか? もしよろしければ、魔女様も」
「あーあー、気遣いは無用だよ。ふたりだけで好きなだけ歩いておいで! フローラは文句ばっかり言ってないで準備をし! 可愛げのない女は好かれないよ」
「………」
うっと眉間にしわを寄せたフローラが立ち上がり、俺の方に近づいてくる。
「お散歩、行きます」
「わっ、行きましょう! 準備は……」
「……できてます」
「そうですか。では、参りましょう」
手を差し出すと、文句を言わずに彼女は自分のものを添えてくるため、嬉しくなってぎゅっと握る。
「……ああ、付き添いはいらないから」
室内を出ようとして、後ろからさっとついてこようとする騎士たちにそう告げ、こっそりため息をつく。……息が、詰まりそうだ。
ここがどこだかわからないわけではないけど、フローラとのひとときが減っていることに対して深い不満を持っていた。




