五年越しの告白
「俺はあなたの呪いにはかかっていません。もともとあなたに惹かれていたのですから効果はありません」
王宮の魔女の術式から解放されたからだろう。
言いたくて言いたくて仕方がなかった言葉がすんなり出た。
「で、でも……」
「たしかに、あの日、不思議と心が軽くて、いつもよりも素直になれたのは確かです。情けない限りです」
魔女の持つ力に頼らないと、想いのひとつも告げることができなかったのだ。
「あなたが国を出たときに誓いました。もう二度と泣かさないと。そして、これからは後悔をしないようしっかりと想いを伝えていくのだと。それが俺、ジャドールという男なんです」
ジャドールになった。
堂々と彼女が守れるように。
しっかり毎日好きだと伝えられるように。
なりたいと願った理想の姿だった。
「今さら遅いかもしれませんが、あなたを心から愛しています、フローラ!」
わかってほしい。
ずっとずっと、俺にはあなたしかいないということを。
「愛しています、フローラ!」
「えっ!」
声がかれるまで伝えたい。
そう願う俺の必死の言葉に彼女は我に返ったように飛び上がる。
「あなたが大好きです!」
その様子は、いつものフローラのものだった。
「大好きで大好きでたまらない! この世の中でなによりも大切に思っています! フローラ、俺にはあなただけです」
それが、ジャドールという男なのだ。
「ちょっ!」
「あなたのためなら何を捨てたって構わない。 俺は……」
「わ、わかってます! わかっていますからっ!」
突然頬を染めた彼女が、俺の手を振り払い、両手で顔を覆った。
「わかっていないです!」
逃がすものかと再度、その手を握り直す。
伝わらないのなら何度だって伝えたい。
「あなたはいつもはぐらかす。俺はあなたを愛しているんです。この気持ちは……」
「わっ、わかっています!」
わかっていますから!と彼女も珍しく声を荒げた。
「いっ、いつもちゃんと伝えてくれていましたから……わ、わかっていますよ」
だからそんな熱い瞳で見つめて、何度も何度も言わないで……と、チラチラとこちらに目を向けながら言う。
「魔女様との約束だったとは言え、あなたを騙していたのも事実です」
過去に過ちを犯した末王子としてではなく、もうひとりの自分として彼女の目に留まろうとした。
「気づいていましたよ」
「そうでしたか」
後半、薄々そうだろうとは思っていたけど、改めて言われてしまうのは恥ずかしいものだ。
「そうですよ。あなたがなぜ『ジャドール』という名を使ったのかはずっと疑問でしたけど……」
「異国の言葉です」
「えっ?」
J'adore
ずっとずっと、フローラにだけ贈りたかった言葉だ。
「俺もあなたに呪いをかけたかったから」
逆に俺ばかりいい想いをすることになるのだけど、さすがに今はまだ秘密だ。
「フローラ、許していただけなくてもかまいません。ですが、あなたのそばにいたい。ずっとずっとあなたのそばにいたい。俺を、あなたの騎士のままでいさせていただけないでしょうか」
いつもの彼女が戻ってきたところで、もう一度懇願を繰り返す。
ずるい俺は、フローラがジャドールに甘いことを知っている。
「き、騎士って、あ、あなたは正真正銘本物の王子様ですから」
「ふたりの愛の巣では、あなたの騎士です」
「ふっ……なっ……」
あなたの騎士です。
あなたのそばで、ずっとずっとあなただけを守っていきたい。
その想いは変わらない。
「相変わらずです、ジャドール」
瞳からキラキラと輝く涙を流し、彼女は笑った。
今までとは違う。
透き通った美しい涙だった。
「わたしも……わたしもあなたのおそばにいたいです! も、もう二度と暴走しないよう心から誓いますから、お許しください」
「フローラ……」
(ああ……)
不覚にも泣きそうになり、ぐっとこらえる。
(やっと、捕まえた……)
「あなたを好きでいられる呪いなら、いつでも大歓迎ですよ」
朝日が照らす彼女の表情は、とっても晴れやかで温かいものだった。
「ジャドール……」
小さな手が俺の頬に触れ、頬を緩めた。
その笑顔があまりにも可愛くて可愛くて。
そのまま吸い込まれるように彼女の唇を奪ってしまった。
重ねるごとに彼女の熱が伝わってきて、これが夢でないことを実感した。
「んんんっ!!」
長すぎる!と肩で息をしたフローラが憤慨してきた。
その姿さえも愛らしくて困る。
(ああ……やっと、言える)
「おはようございます、フローラ」
頬を膨らませたままのフローラが飛びついてきて、しっかりと受け止める。
ようやく夜明けがやってくる。
俺達の新しい朝を連れて。




