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『あなたと話がしたい』

 やはり気づいていたのだろう。


「ということだから、あとは連れて行っておくれよ」


 王宮の魔女からこちらに向けて放たれた声と、え?と驚きを見せたフローラが振り返ったところだった。


「ふ、フローラ……」


 一日ほどしか離れていなかったが、もうずいぶん会えていない気がした。


 涙で濡れたその顔は、痛々しかった。


 彼女が大きく瞳を見開いたのと同時に、深く頭を下げる。


「泣かさないって約束したのに」


 頭上から、王宮の魔女の声がした。


「申し訳ございません」


 二度と、もう二度と泣かせないと約束をしてあの深い森に向かったというのに。


 実際のところ、泣かせてばかりだった。


「ちょっ、おばあちゃん……」


 頭を下げ続けると、慌てたフローラの声が聞こえた。


「どうして……」


「事後報告で構わないよ。今さらかと思うけど、一応嫁入りの娘だからね。節度を守ってくれればあとは好きにしてくれていいから。さっ、出ていった出ていった!」


「お、おばあちゃん!!」


 フローラの切羽詰まった声に聞く耳を持たずに王宮の魔女はベッドに潜り込むしぐさをした。


「さぁさぁ、もう休ませておくれ! わたしは病の身だからね」


 そうして、これ以上なやりとりは拒絶するかのように勢い良く、掛け布団を頭まですっぽりかぶってしまったのだ。


 どうしたらいいのかわからないのだろう。


 困惑した様子のフローラが俯いた。


「フローラ、あなたと話がしたい」


 もうだめかも知れないけど、このままで終わりたくない。


 祈るような思いだった。


「俺に、時間をいただけませんか?」


 きゅっと唇を引き結んだフローラはやっぱり泣き出しそうだった。


 それでも小さく頷いてくれたのだ。


 手を差し伸べると、震える手がそっと乗せられた。


 彼女を案内したい場所がある。


 そこまで誘導しようと手を引くと、唯一触れた指先に少し力が込められた気がした。


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