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断ち切れぬ想い

 リオラが鋭い刃を振りかざし、綾に向かって猛然と攻撃を仕掛けた。二人の間には激しい衝突が繰り返され、刃が何度も交差する音が響く。

 綾の動きは軽快で、リオラの攻撃を全て受け流していた。対人慣れしており、リオラより技術があることは明らかだった。綾は急所に峰打ちを入れるなど、決定打をいくつか当てていた。

 しかし、一体どれ程の身体強化をしているのだろうか、リオラにダメージが入っている様子は無かった。

 リオラは綾が自分を殺すことが出来ないのをいいことに、攻撃を防ぐこと無く、圧倒的な身体能力で綾を押し込んでいた。


「やめるんだ、リオラ!!」綾の声が響く。


「貴方に用は無いから、邪魔しないでくれない!?」リオラは苛立ったように返した。


 攻撃の手を一切緩めることなく、綾を殺しにかかる。だが、再生力や強靱な身体能力があっても、集中力は無限ではない。疲労の色がリオラの顔に現れ始めていた。


 一方で、綾も決して無傷ではなかった。防衛戦時での消耗によって動きが鈍り、単調になっていく。

 そして綾の刀がリオラの剣を弾き飛ばした。

 しかしその刹那、彼女は隙を作ってしまった。


「がっ・・・!」


 綾は不覚を取ってしまい、リオラの左腕が綾の側頭部を捉えて綾の体勢を大きく崩した。


「ふぅ・・・。結構やるじゃん」


 そう言い、リオラが剣を振りかぶった。

 すると次の瞬間、二人の間にアセロンが割り込み、リオラを殴り飛ばした。アセロンの身体は傷一つ無い状態に戻っており、左腕と左目が完全に再生されていた。先程までの追い詰められて傷ついていた姿とは、まるで別人のような体をしていた。

 それもそう、アセロンは体を再生させる力を使っていたのだ。

 しかし、綾はアセロンの再生を初めて見たためとても驚いていたが、彼女には他に気になることがあった。その気になることとは、アセロンの目に何か異質な光が宿っていたことだ。それは冷たく、無機質な瞳をしていた。まるで別の何者かにでも操られているかのようだった。


「あんた、何で腕が・・・」


 綾が驚きのあまり声をかけるも、彼の瞳には何の反応もなかった。彼はゆっくりとリオラの方へ歩み寄っていく。

 そのアセロンを見たリオラは鋭い目つきでアセロンを見つめ、剣は取らずに拳を構えた。


「ふぅん? 私、殴り合いなら結構自信あるよ?」


 そしてアセロンとリオラは再び衝突した。


――――――


―それよりも少し前―


 アセロンはリオラと綾の戦いを見ながら傷口を再生させていた。しかし、その戦いを見ながらアセロンは戦意を失いつつあった。


『なぁノク・・・。リオラを元に戻す方法、何か考えは無いのか?』


『・・・あったのだが、彼女は私達とは違って完璧に融合しているため、為す術が無いのだ』


 アセロンはしばらく考えた後、ぽつりと言った。


『・・・俺の意識を弄ってくれ』


『・・・今なんと言った?』


『だから、俺の意識を弄って欲しいんだ』


 あまりにも唐突で意外なことを言われたノクは、思わず聞き返した。一瞬冗談なのかと思うような事だったが、アセロンの言葉に冗談のようなものは感じなかった。しかし、それはどこか虚ろな印象を与えるものだった。

 アセロンはもう限界だったのだ。別人格のしている事とはいえ、あのリオラが自分を殺そうとしている。さらには彼女を元に戻すことは出来ない。彼を絶望させるには、これだけで十分だった。

 それだけでは無い。アセロン達の元へグリモリングの群れと共にミレナを仕向け、最終的にはアレリウスとミレナの元へ暁とやらを呼び寄せた。つまりリオラは、アレリウス殺害に加担した、いわば仇の一人でもあるのだ。


 アセロンはもう諦めていた。もうリオラを元に戻せない以上、リオラの名誉のためにここで彼女を終わらせる必要があると。それでもアセロンは、僅かに躊躇っていた。

 だから彼は、最愛の人を手にかけるために自身の意識を操作し、躊躇う意志を排除しようとした。


『ノク・・・今の俺では、リオラを殺すことなんて出来ない』


『・・・だが意識を操作するなんて、脳を弄るようなものだ。リスクが高すぎる。貴様は、それでもいいのか?』


『あぁ、覚悟の上だ。最後ぐらい、俺はあいつを・・・解き放ってやりたい』


『・・・・承知した』


 その後、アセロンは全身の傷が癒え、腕と目が再生すると同時に、彼は自身の頭にある躊躇いの意志が消えていくことが分かった。

 そして彼はリオラと綾の間に割り込んでいった。


――――――


『――アセロン、脳を元に戻した。・・・終わったぞ』ノクの低い声が頭に響いた。


 その声が聞こえると同時に、アセロンは意識を取り戻した。


『だが、戦闘を進めていく内に理性まで失っていた。危なかったぞ』


 そうしてアセロンは正気を取り戻した。そして、アセロンの拳がリオラの心臓を貫いていることに気がついた。


 覚悟は出来ていたが、いざ目の当たりにした彼は、その場に腰を抜かし、地面に尻餅をついた。


「俺が・・・、リオラを・・・、俺が・・・」


 途中から意識が無かったため、現実が彼に向かって押し寄せてくる。アセロンは激しく取り乱し、拳を血で濡らしたまま震えていた。


「・・・、アセロン・・・」アセロンにもたれ掛かっているリオラが、かすれた声で彼に話しかけた。


 そのリオラの声はかすれているものの、元のリオラに戻っていることは明確だった。


アセロンは彼女の言葉に、はっとしたように返した。「リオラ!生きているのか!?よかった・・・。早く再生するんだ!」


 アセロンは希望を抱いた。リオラを元に戻せたのではないのかと。


 しかし、残酷な現実を押しつけるように彼女は弱々しく言った。


「心臓がやられちゃってるから・・・、再生できない・・・」


 彼女の再生力の源はアセロンと同じく、心臓にある。そのため、心臓を貫かれたリオラは再生力を失い、同時に別の人格の支配からも逃れていた。


「でも・・・、今こうしてお話できているのは・・・、紛れもない奇跡・・・だから・・・」


 語りかける彼女の声に、アセロンは耳を傾け、涙を流しながら震える手で彼女を支えた。


「謝りたい・・・。今まで言えなかったこと・・・、兄さんとミレナさんのこと・・・、そして・・・今回のこと。ごめんなさい・・・・・こんなに弱い私で」


 リオラの声は弱々しいが、その中には深い懺悔と慰めが込められていた。彼女は自分の犯した罪に対する後悔を滲ませながらも、彼女の言葉は優しく、穏やかで、悲哀が漂っていた。


「リオラ・・・そんなこと言わないでくれ・・・。悪いのはお前じゃない・・・、悪いのは・・・」


「ありがとう・・・アセロン・・・。これからは・・・前を向いて・・・、復讐なんてもうやめて・・・生きて・・・」彼女の声が徐々に弱々しくなっていく。


「止めれるもんかよ・・・、こんなことされて・・・忘れられるはずが無い・・・!!」


 そう言うアセロンを見て、リオラは悲しそうに、そして諦めたかのようにかすかに微笑んだ。


「・・・じゃあ、最後に・・・」


 二人は最後の口づけを交わし、アセロンは自身の腕の中で壊れゆく彼女の我儘に従うことしか出来なかった。


「もっと・・・私を・・・」


 リオラはアセロンの腕の中で静かに息絶えた。彼女の瞳は閉じ、穏やかな表情を浮かべたまま、永遠の眠りについた。




           アセロンは初めて、人を殺めた。

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