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元騎士の遊び人、奴隷の少女を保護する  作者: あべしろ
第1章 遊び人と奴隷少女の出会い
15/66

15. 過去編:勇者キセラ誕生の瞬間

 フィリーズが15歳の時、フィリーズはキセラと共に騎士学校を卒業した。フィリーズはキセラと共に、騎士学校では今までにないほどの好成績を残して卒業した。2人はその功績が認められ、新人でいきなり騎士団長の親衛隊に取り立てられた。


「キセラにフィリーズ。我が騎士団にようこそ。キセラとは初めましてだな」

「お久しぶりです騎士団長」

「初めまして騎士団長。お会いできて光栄です」


 騎士団長アーセム・グランツ。最上位貴族であるグランツ公爵家の当主であり、ミスト王国騎士団の騎士団長でもある、30代の男性である。2メートル近い長身に白髪、がっしりと鍛えられた肉体を持つ。その手腕により、ミスト王国の騎士団の地位を、現在の位置まで引き上げた功労者でもある。


「親衛隊に取り立てていただき、ありがとうございます。ですが、1つだけ疑問があります」

「よい。話してみろキセラ」

「はい。親衛隊は実質的に王宮と王族の守護を任されている関係上、貴族のみで構成されている部隊のはずです。どうして平民の私を?」

「優秀な人材に、身分など関係ないさ。国の為に戦う剣であり、国を守る盾である。それが我々騎士なのだ」

「ありがとうございます。騎士団長、あなたの人となり、よくわかりました」


 キセラは騎士団長の言葉を聞き、満足そうに(うなず)いた。どうやら彼女は、騎士団長を試していたようだ。


「私は君のお眼鏡に叶ったかな?」


 そして騎士団長自身も、キセラの思惑をわかった上で答えたようだ。一人取り残されたフィリーズは、2人の初対面とは思えないやり取りに、感嘆(かんたん)するしかなかった。

 こうして、フィリーズとキセラの騎士団生活が始まった。






 騎士団長の親衛隊の主な役割は、王宮の守護と、王族の護衛だ。基本的には王宮に留まり、王宮の警護を担当している。だが、フィリーズとキセラは少し特殊で、王族の警護というより、王都周辺の問題を解決する、外回りを主にやっていた。

 王都周辺の強力な魔物の退治、盗賊団の討伐。そして、犯罪者の逮捕などだ。

 フィリーズたちが初めて名を上げた功績の1つが、ペロル伯爵の不正の証拠を掴み、失脚(しっきゃく)に追いやったことだ。この事件がきっかけで、キセラに対する平民の印象が変わった。平民の騎士が貴族を失脚させた、それが市勢に一気に広まったのだ。


 そんなフィリーズたちが、親衛隊に入って2年、フィリーズとキセラが17歳の頃の事。1年に1度開催される聖剣祭(せいけんさい)の時の出来事だ。

 聖剣祭とはミスト王国王家が主催する、1年に1度の国を挙げた王都のお祭りである。国中から人が集まり、王族のパレードや多くの出店の出店。王都中がお祭り騒ぎになる、唯一の日である。

 その聖剣祭でメインイベントの1つであるのが、その日だけ解放される、聖剣カリバーンへの挑戦だ。事前の申請によって許可を受けた数人の猛者(もさ)が、聖剣カリバーンを引き抜けるか、その挑戦を観戦するのだ。


 聖剣カリバーンの封印の(ほこら)、その中にある神殿(しんでん)にて、多くの人が詰めかける中、フィリーズとキセラは王族の護衛についていた。フィリーズとキセラが担当するのは、第二王子のヨーゼフと、第三王女のエムリアであった。第二王子は20歳で第三王女は12歳と、歳は離れているが、この2人は仲が良いと(ちまた)では有名であった。今も第三王女のエムリアは、第二王子のヨーゼフにピッタリとくっついていて、第二王子の服の裾を握っていた。


「本当に仲が良いのですね。ヨーゼフ様とエムリア様は」

「もうそろそろ兄離れをして欲しいものですけど、つい私も甘やかしてしまうんです」


 ヨーゼフの周囲を警戒しながら、フィリーズはヨーゼフに話しかけた。


「仕方ないですよ。こんなに可愛い妹さんがいたら、私も甘やかしてしまいそうですし」


 キセラがエムリアを見ながらそんな事を言う。キセラの言葉を聞いたエムリアは恥ずかしそうにヨーゼフの後ろに隠れた。どうやら彼女はかなりの人見知りのようだ。


「そうか。わかってくれるかい、キセラ」

「はい、わかりますとも。それなのにフィリーズときたら、こんなに可愛い女の子がすぐ近くにいるのに、私を甘やかしてくれないんですよ?」

「はぁ?」


 突如流れ弾が飛んできたフィリーズは、王族の前だというのに素の言葉が出てしまった。


「そうなのかい?」

「そうなんです。フィリーズは厳しすぎるんです。私が少し任務中に寄り道したり、無駄話をしていると、すぐに怒るんですよ?遅刻なんてしようものなら、もうそれは烈火のごとく怒るんですから」

「へぇ。それは大変だね。女の子は大切にしなくちゃねフィリーズ」


 何故か怒られるフィリーズは、いつものようにキセラに言葉を返す。


「君がちゃんとしていれば厳しくはしないさ。寄り道ばかりの君が悪い」

「寄り道じゃないです~。情報収集も兼ねてます~」

「そこらの一般市民と世間話をするのがかい?」

「そうよ!市民の情勢(じょうせい)を知るのも、騎士の役目だわ!」

「ほとんど眉唾物(まゆつばもの)のゴシップ話だろ!」


 そんな仲の良さそうなやり取りをしていると、どうやら聖剣カリバーンへの挑戦が始まったようだ。だが、今年も全員が聖剣カリバーンを抜くことは叶わず、特に盛り上がりが無く終わりを告げる。

 そう思った矢先、騎士団長からとあるサプライズがされる。


「実は今年はもう1人挑戦者がいる。それは――――――、キセラ。君だ!」

「―――え?」


 騎士団長が紹介したのはフィリーズの隣にいるキセラであった。当の本人も聞かされてはいなかったみたいで、放心状態になってしまっている。

 周囲の反応はまばらだ。同じ親衛隊の騎士仲間からはおおむね好意的な反応であったが、周囲の王族や貴族からは否定的な反応が多い。

 この聖剣カリバーンへの挑戦には優先順位がある。基本的に【評議会(ひょうぎかい)】と呼ばれる、最上位貴族の集まりが挑戦者を定めているのだ。当然貴族が挑戦権を定めているため、平民に挑戦権が回ってくることはまずない。

 評議会は王族と共に、国の方針を決める最上位貴族たちの機関である。公爵である騎士団長のアーセムや、フィリーズの実家であるレヴィール侯爵家も、この評議会に属している。

 そして、その評議会の一員である騎士団長が、独断でキセラの聖剣カリバーンへの挑戦を認めたのだ。


「騎士団長!そんな話聞いてません!」

「当然だ。言っていなかったからな」

「騎士団長~~~~~!!!」


 キセラは困ったような怒ったような、そんな声を出す。そんな戸惑う彼女の背中を、フィリーズがそっと押す。


「キセラ、行ってこい。君なら抜ける。そんな気がする」


 フィリーズがキセラに言うと、キセラは少し顔を赤らめた。


「―――もう。たまにそうやって変なこと言うんだから」


 キセラはフィリーズに聞こえない様に、そう呟いた。


「わかった、行ってくるわ。―――抜けなくても笑わないでね?」

「ああ。抜けなかったら、一回くらいは甘やかしてやる」


 キセラは一言フィリーズと言葉を交わすと、聖剣カリバーンの方に向かって行った。


 聖剣カリバーンと対峙するキセラ。聖剣カリバーンは封印の石碑(せきひ)に突き刺さっており、その存在をありありと周囲に示す。意匠の綺麗な柄に、純白に輝く刀身。その輝きは、目にするもの全てを釘付けにする。


 キセラはそんな聖剣を前にして、意を決したように聖剣カリバーンの柄を握った。


 その瞬間、今までの挑戦者とは全く違った反応を聖剣カリバーンは見せた。

 キセラが聖剣カリバーンを握った瞬間、聖剣が煌々(こうこう)と輝き始めたのだ。


 キセラはそのまま、間髪入れずに聖剣カリバーンを握る手に力を籠め、一気に聖剣を抜き去った。


 抜き去った聖剣カリバーンは、より一層周囲に輝きをまき散らす。新たな勇者の誕生を祝福し、称えるように。

 周囲の人々は驚愕でキセラの姿に釘付けになる。久しぶりの勇者の誕生に、皆がキセラに目を奪われた。


「おめでとうキセラ」


 騎士団長はまるでわかっていたかのように、キセラに声を掛けた。騎士団長もフィリーズと同様に、キセラが勇者に足る器であると、信じていたのだ。


 フィリーズは抜き去った聖剣カリバーンを上に掲げるキセラを見る。彼女の美しさと、聖剣の輝きが、フィリーズの視線を奪って離さない。

 フィリーズが彼女に恋をした瞬間であった。

 勇者キセラ誕生の瞬間を、フィリーズは一生忘れないだろう。

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