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台風

翌日の台風直撃に備えて職員の皆さんはお休みを取っていただいて大丈夫です。

ここが最後のゆっくりできるときだと思って、三連休にされてください。

そんな伝達が管理職からあったため、9月から他の支店に異動することになってた僕はそそくさと荷物をまとめ、引き継ぎを済ませた。


今夜は帰ったら隆大とゆっくり話そうと決めていたのだが、なんて言えばいいかは未だに答えが出ていない。

断ること自体は決めているのだが、断り文句が出てこない。どうやれば隆大があまり傷つかない言い方ができるだろう。隆大のことを思っているふうをだしているが、実際のところは自分が傷つきたくないだけだ。なんて弱いんだろう。

勝のことを話に出すのも結局そうだ。それがあれば深入りされず、それでいてすんなり断れるからだ。きっと断り文句に使われたことを勝が知ったら怒るんだろう。

「お前が決めたんなら、お前の気持ちだけで言えよ!」と少し癖のある声で。

まぁ、そんなこともどうでもいい。僕は弱い自分さえ守れたら今はそれで。



帰宅して、飯を済ませたところで隆大から連絡が入る。

「今仕事終わったよー!帰って飯食うから20時ぐらいからでどう?」

そんなに明るく言われると、この後の話がしにくいなと思いながらも

「お疲れ様。気をつけて帰ってね。じゃそれまでゴロゴロしとくよ。また教えて。」

と返信する。

「わかったー!ちょっと待っててね!」

やり取りだけ見ればもはやカップルだ。

さて、どうしたもんだか。

未だに断り文句は出てこない。


着信の音がする。考えているうちにうたた寝をしていたようだ。

「ねぇ、こうすけ何回もかけたんだよ?」

隆大は予定してた時間の少し前から連絡をしてくれていた。ごめん。疲れて気がついたら寝てたというと

「大丈夫?仕事そんな大変なん?それなら無理に電話せんでも大丈夫よ?」と

既に電話してるからいいじゃんというと

「それもそうか!で、話って?」

「この間のことなら俺は別に答えはいらないよ。言いたくて言っただけなんだから。」

先に牽制されるとは思ってもなかった。

でも僕もここで引き下がる訳にはいかなかった。

「隆大、ごめん。気持ちはすっごく嬉しいんだけど、僕色々考えて……。」そこまでで言葉が出なくなった。泣きそうだ。

「色々って勝とのことでしょ?知ってるよ。」

隆大の声が少し寂しそうだ。

僕は泣くのを必死にこらえながらここ2週間の話をする。

「へぇ、勝とそこまでいったのに、別の男に持っていかれちゃったんだ。」

「まぁ、俺こうすけが勝のこと好きなの俺たちが付き合ったときから知ってたよ。だから、ごめんって思ってた。」

そんなことまで知られていたなんて、すごく恥ずかしい。必死で隠してたつもりだったのに。

「だから俺、勝と別れたときにすぐにこうすけに連絡したんだよ!今がチャンスだよ!頑張れって!」

「でも、その後でさ。こうすけのこと好きな自分の気持ちに気がついちゃって。1番ずるいタイミングだったんだ今回。」

そうだよ、すっごくずるくてすっごく辛いタイミングだったよと言おうとして、僕は言葉を飲み込む。それに関しては全く隆大に関係ないことだから、これをいうのはただの八つ当たりだ。

「俺、そっちにいないからさ。勝との人間関係気にするのもすげーわかる。でもさ、こうすけもそんなに傷つけられたんなら別にこうすけも幸せになってよくない?」

「俺がこうすけのこと幸せにするよ。勝がなんか言ってきても終わったことに対してグズグズ言ってるアイツが悪いから無視すればいいよ。俺が守るから。」

気持ちがぐらついたのが自分でもわかった。

確かに、僕が勝のことを好きでいる理由は無い。ましてや今回のように急にはしごを外されたような場合、なんで僕がここまで勝のことを考えなきゃいけないんだろう。

隆大の話を聞きながら、僕の中に出てきた言葉は

「ねぇ、隆大。本当に守ってくれる?本当に僕なんかでいいの?」

「もちろんだよ。こうすけ、今は離れてるけどちゃんと守るから安心して。」


こうして、断ろうとしてた僕の気持ちを全部塗り替えられて僕たちは付き合うことにした。

しばらくは誰にも言わない、秘密の恋愛のスタートだった。

隆大の言葉はたしかに軽い。勝のときと同じように浮気もされるんだろう。

でも、今の僕はそんなことどうだっていいと思えるぐらいに、隆大の優しさで自分の中の傷を埋めるのに必死だった。


なんてずるくて弱い人間だろう。

好きになった人が未だに忘れられない人と付き合うことにするなんて。

そうして僕も好きな人を忘れるために人を利用するなんて。


その日僕はこれまでにない幸せを知るとともに、これまで見たことの無い自分の汚さを知った。


台風は思ったよりも酷くなく通過していく。

秋らしくなるかと思えば真夏日が続いている。

この暑さで僕も狂ったのだろう。

でなければ、こんな選択しなかった。


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