やくそく
タンポポの綿が飛ぶ頃、彼女は約束を思い出しそして旅に出る。
ぶらぶらとその約束の目的地にまで。
そんなエルフの旅路です。
「もう春かぁ~」
私は空を見上げ、飛んで行くタンポポの綿毛を見ている。
森の中でもここは開けていて、近くでは蜂蜜を取っている仲間のエルフの姿も見える。
私に割り当てられている薬草採取の仕事はとっくに終わっていた。
エルフの村では二百歳を超えた頃から、役割分担で各自決まった仕事が割り与えられる。
そして採取したモノとかは全部村の倉庫にしまって、均等に配分される。
とは言え、エルフは数十年、いや百年経っても変わらない生活なので消耗品以外に特に必要となるモノはそうそうない。
だから村のみんなものんびりと仕事をこなしている。
瀬戸物のお皿なんか下手したら一年以上かかって作ったりと、その気になれば一月もいらないはずなのに。
過去に村を出て外の世界を知っている私にとって、この村はとても退屈な場所だった。
「どうしたのサーナさん、ぼうっとしちゃって?」
「ああ、リル。いや、もう春なんだなぁって……」
休暇と言って村に戻って来ているリルだった。
彼女はエルフにしては珍しく、双子である。
今は妹のルラと一緒に世界中にあるシーナ商会の手伝いをしているらしいけど、休暇をもらってこのエルフの村に戻って来ていた。
ああ、そうそう、彼女たちのお陰でこのエルフの村の食事事情はかなり改善されていた。
私も二百年前にこの村に戻ってきて、村の食事事情が大きく改善されたのには驚いた。
エルフ豆ばかりの食生活が、南方からのお米を輸入したり、発酵食品の作成もしたりでかなりか変わっていたのには驚かされたものだ。
「そうですね、春になったから仕事に戻ったら海産物の仕入れで忙しくなりそうですね。春はカツオモドキが美味しい時期ですからねぇ」
「相変わらず外の世界は変化が激しいのかしら?」
「うーん、どうでしょうね? 私が魔法学園に留学に行ったのが二百年前ですから、そこからはそんなに変わってないとは思いますけどね」
そう言って彼女は指を下唇に当て、上を向いて考え込む。
そして私に向かってにっこりと言う。
「うん、この二百年比較的平和ですからね」
「平和ねぇ……」
エルフの村にいると、外の世界の事が分からなくなってくる。
そしてその間、私たちエルフには驚かされる程に外の世界は変わる。
「そうか二百年か……」
私はそう言って、リルに向かって聞く。
「ジマの国って、今どうなっているの?」
「え? ジマの国ですか?? えーと、特に変わりないとは思いますけど……」
「そっか、じゃあ約束もあるから行ってこようかな……」
「はい?」
私はそれだけ言って、リルに手を振って長老の元へ向かう事にするのだった。
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