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一度唱えたら死ぬ呪文  作者: モノ創
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シーズン1 終章 結

 終章 結


 それから暫くして、爆音と衝撃が収まると昭道の魔法によって煙が払われ視界が良好となる。

「みんな無事かね」

 一同は互いの無事を確認し合うように周囲を見渡した。栄治を残して、僕らは無事に直立出来ていた。グラウンドの芝は、僕らの足元以外はほとんど抉れて土が剥き出しになってしまっていた。無機質な壁もコンクリート部分が吹き飛んで、水管やら土やら綿やらが露出している。

「せめて、遺体は奇麗にしたかったんじゃがな…右腕だけいってもうたか」

 右腕がグロテスクに吹き飛んだ栄治は、ぐったりと芝に顔を付けて寝ていた。そんな栄治の遺体を、昭道が上の階の観客席へと運んだ。

「まだ…終わってない…」

 瓦礫の中から怨念のような声が轟き、僕らの注目は一斉にそこへ集まった。

「せめて…お前らだけでも殺して…」

 瓦礫が宙に浮き、中から体の構造がぐちゃぐちゃに変形した局長が姿を現した。

「凄まじい執念じゃ…」

「き、気持ち悪い…」

 久しぶりに有栖が言葉を発し、局長から逃げるように退く。美萩は銃弾を撃ち込むが、黒い球体が壁となり阻止されてしまう。

「なんなのあの黒い球!」

「あやつの固有魔法…変化の丸武器と、命名していたかの」

「ダッサイわね…」

 美萩は局長を貶しながら諦めず発砲をするが、全て受け止められてしまう。局長はゆっくりとこちらへ近づき、球体に手をかざす。しかし、メデューサと目を合わせたかのように局長の動きはそこで停止した。

「な…何なの…」

 そのままゆっくりと上半身から倒れ込んで固まってしまう。地面に衝突した反動で、折れ曲がった節々から、鈍い音と一緒に骨が肉を貫いて飛び出した。有栖は目を逸らし、美萩は恐る恐る局長へ近寄り脈を測る。

「死んでる…」

 その報告を聞いた僕と凪と有紗は、その場でへたり込んでしまう。創史が美萩に代わってもう一度脈拍を測るも、確かに絶命しているという結論に達した。

 こうして、僕らの戦いは幕を下ろした。創史と昭道が上層部へ連絡を取り、事態の収拾に当たるため指示を受けた。また、戦闘を行った僕らは精神的な治療も含めるようにと二週間の入院を命じられた。一日にして五百名近くの死亡者を出してしまった今事件の責任は全て、元凶である魔法科学特別混合部隊の監督省である防衛省に押し付けられた。当然、部隊予算、指揮権、部隊そのものなど、多くの権限を失い部隊は解散となった。他の二部隊も、そこまでの大事にはならなかったものの、人数不足という事で解散または再構築が指示されている。後の調査によると、僕の推理は大方正しかったようで、僕の功績は国から称えられることとなった。特別支店長室から確認された書類は、局長と支店長との繋がりを赤裸々に綴ったものであり、事件の全容はその書類によって裏付けされ公の下に晒された。聖の生い立ちもそこに記載されており、彼は高校を卒業後、有栖と同様に軍にスカウトされた人物だった。数年の内に、海外の戦地にて超絶的な活躍を見せ、部隊長の座に君臨した。それからあの局長の怪しい行動に目を付けた聖は、スパイとして行動を起こし始めるも、上層部や同僚に話すことはせず、たった一人で暗躍していた。ビッグボブとビックボクの元夫婦は、僕らが口約束で罪を軽くすると言っただけだったので、法的効力を有さず相応の処罰が下されることとなった。ジャイパンクにもバッシングが相次いだようで、杜撰な管理体制からコネ入社まで多方面から攻撃されて参っているようだった。

 雨降る空の下、盛と栄治を含めた約五百名の葬式が盛大に挙げられ、僕らは近場のスターバックスで涙ぐみながら最後のひと時を過ごしていた。

「今日ばかりは僕をリスペクトして、みんな喪服だね」

「ったく相変わらずなんだから」

「あ、今笑った?珍しく笑ったじゃん!ね?有栖」

「そうですね」

「こういう地の底に足を着くくらいの暗い場面では、あんたのつまらないジョークも面白く感じるわ」

「なんだそりゃ」

「で、みんなはこれからどうするのかしら」

「僕は…一応創史と昭道からオファーが来ているけど、それとは別に、特別区限定で小さな警備隊を設立しようと持ち掛けられているんだ。まだ悩み中なんだけどさ」

「私も、冬馬さんと同じくです」

「なーんだ。みんな同じなのね。ただ、私の場合は凪もかなりショックを受けちゃってて、一回帰省しようかなって思っているんだよね。ほら、研究の事で花が咲きそうだったのに…とか、信頼していた聖が…とかあったからさ」

「それもいいかもなあ」

 僕らは各々フラペチーノの最後の一口を飲み干して、残ったクリームを無理に吸おうと音を立てる。やっと奇麗に完食出来たと満足していると、不意に声を掛けられた。

「喪服で季節限定のフラペチーノ飲んでいる怪しい集団がいると通報を受けたんだが…君らか」

 振り返ると、創史が困ったように頭を掻いて立っていた。

「あ、お疲れ様です。もう仕事ですか?」

 美萩の質問に答える前に、僕らを店から連れ出した。

「冬馬君にも言おうと思っていたが、喪服でうろつくのはやめたまえ」

「これ以外服無いんですよ」

「冬馬君はこれからショッピング…と言いたいところだが、この三人である事件の調査だ」

「え、私たちまだ無職なんですけど…」

「日当の報酬が出る」

「アルバイトってことですね…」

 有栖も嫌そうに呟いた。

「いいから!現地へ行くぞ!」

 半ば強引にドラゴンに乗らされて向かった先は、横浜のとある場所だった。鮮明に覚えているあの建物の四階テラス。

「つい先日、ここで男二人と女一人が言い争いになって男が転落したようだ。下には死骸はおろか、血痕の一つも付いていないようだ。なんでも、呪文を唱えながら落下していったのだとか」

「え…?その呪文って…」

「ああ。爆発しろって叫んだようだ」

 世界は不思議で溢れている。何気なく発した言葉が物事の動き出す鍵になることだってある。その落下した男がその後どうなったかは恐らく、この世界では解明できないまま終えるのだろう。未解決事件として語り継がれることになるのだろう。僕はそこから見える、また違った世界の景色を眺めながら大きく息を吸った。先ほどまで振っていた雨は引きあがり、太陽の光が水面に反射する。僕たちの傷んだ心を癒すように温かな衣が身を包んだ。草花は死んでいった者たちを代弁するかのように嬉し涙を流している。彼らの信念を受け継ぎ、あの日から成長を続ける僕はまた事件を解決する。



以上となります。ありがとうございました。

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