CAR LOVE LETTER 「Forgotten word」
車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。
貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?
そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。
<Theme:NISSAN CUBE(BZ11)>
今日の合コンも最っ悪だった!
連れの男の子が医学部の結構いい感じの男連れて来るとか言ってたけど、は〜?って感じのやつだったし、しゃべりとかもあんまり面白くないし、しかもそいつら酔ってきたら身体触って来たりするしさ。どんだけ飢えてんのって感じで!
結局二次会も無しで解散って事にしてさ、あたしらは女だけでカラオケに行く事にしたの。
みんなは朝まで遊んでくって言ってたけど、あたし明日学校一限目からあるし、しかも出席かなりヤバイから、途中で抜ける事にしたんだ。
駅に着いたら、ちょうど下りの最終が行ったばかりでさ、もぅ最悪。
まぁ、いいか。またアイツに来てもらおっかな。
「もしもし?」ちょっと不機嫌そうな感じでアイツは電話に出る。
「ごめ〜ん、電車終っちゃってさぁ。悪いんだけど、駅まで来てくんない?」
30分程してアイツのキューブが駅のロータリーにやって来る。
「いつもごめんねぇ。」あたしは慣れた感じでキューブの助手席に滑り込む。スカッシュの香りとOASISの曲があたしを出迎える。
「別にいいよ。」不機嫌そうだけど、内心まんざらでもなさそうな感じで、アイツはキューブを走らせた。
アイツとあたしは、大学のゼミで一緒の同期生。1年の頃から仲良しグループみたいなのでつるんでいた。
みんなで飲みに行った時に、二人っきりになった時があって、その時あたし、アイツに告られてさ。
あたしとしても、アイツのこと別に嫌いじゃないし、他に気になる男がいる訳でもないし、まぁいっかなぁと思ったんだけど、ぶっちゃけそんなすごいタイプって訳でもないし、今のこの仲間のバランスがおかしくなっちゃうのも嫌だなぁと思ったの。
だからあたし、その時アイツに「ありがとう」って言って、お茶を濁す事にしたんだ。
それ以来、あたしとアイツの「友達以上、恋人未満」って関係がスタートしたの。
二人で買い物したり、ご飯や映画行ったりとかさ、でもキスもエッチもしないし、お互い束縛したりもしない。
あたしらの事情を知ってる親友は、「アイツもよく耐えてるよね」って言ってた。
確かに、あたしはアイツの気持ちをうまく利用しているだけかも知れない。これ以上進展が望めないのだから、アイツにとっても他の女と付き合った方がいいんじゃないかと思う。
でもいつもアイツが「別にいいよ。」と言う度に、あたしはまたアイツに「友達以上、恋人未満」を強要してしまうの。
アパートまで送り届けてもらう。この時間なら、今からシャワーしても明日の一限目に間に合う様に起きられそうだ。
あたしはキューブから降り、運転席側にまわって「今日もありがとね。」とアイツに言う。
「別にいいよ。」といつもの様にアイツは言う。でもすごく物欲しそうな表情。
少し間を置いて、「じゃ、また明日。」とアイツからきりだしてきた。
キスくらい、してあげればよかったかな。あたしは自分がちょっとひどい女に思えてきた。
夏の終わり頃、あたしはバイトの面接を受けに行った。多分一年位しか出来ないんだろうけど、バイト代貯めて、卒業旅行に海外とか行きたいんだ。
その帰り、もの凄い大雨に見舞われた。傘もないし、雨は止みそうもないし、困ったなぁ・・・。
また、アイツにお願いしちゃおうかな。
「もしもし。」またアイツは不機嫌そうに電話に出る。
「ごめ〜ん、傘持ってなくてさぁ。悪いんだけど、迎えに来てくんない?」
「・・・いいよ。」いつもよりずいぶん間があった様な気がした。
さすがに怒ってるのかなぁ。今日はキスくらいしてあげようかなぁ。
バイト先で待っていると、雨をワイパーで拭いながら、アイツのキューブがやってきた。ハザードランプを点滅させて、道路で待ってくれている。
あたしは水溜まりを跳び越えて、雨の中キューブへ駆け込んだ。
「ごめんねぇ。雨降るなんて思わなかったからさぁ。」あたしはなるべく明るくアイツにそう言った。でもアイツは無言でキューブを発進させる。
あ〜、ヤバイかな。結構怒ってる感じかな。言葉少なにアイツはキューブを走らせる。楽しい会話を引き出す間もなく、あたしのアパートに到着する。
なんかキスするとかそういう空気でもないしな〜。あたしはアイツの顔をチラっと見る。アイツは前の道路を見つめたまんま。
するとアイツから「俺さ、もうお前を迎えに来てやれないから。」と言ってきた。
「何で?怒ってるの?それとも、彼女でも出来たの?」あたしはトンチンカンな質問をしてしまった。でもその場の空気とアイツからの思いがけないその言葉から、あたしはそう聞くだけで精一杯だった。
アイツは、家庭の事情で家に帰る事になったって、学校も辞める事になったって、もう来月には、地元に帰っちゃうって、そう言ってた。
急な話に、あたしの思考は止まってしまった。
アイツは去り際に寂しそうな顔をして「ごめんな。」と言ってきた。ちょっと待って、それはあたしのセリフだから。
あたしは降りしきる雨の中、去り行くキューブの後ろ姿をただただ見つめるだけだった。
仲間でアイツの送別会をやろうって話になった。もちろんあたしも行くと言ってたんだけど、あまりにもバツが悪くて、あたしは体調不良って事にして、送別会をドタキャンしてしまった。
アイツが出発する日も、あたしはあえてバイトを入れて、アイツの事を考えないようにした。
学校帰りの駅までの道沿いに、アイツが住んでたアパートがある。
二階の角部屋で、緑のカーテンで、いつも洗濯物がぶら下がってて、そして駐車場にはキューブが停まっていた。
今は駐車場にはキューブはいない、緑のカーテンも洗濯物もない、入居者募集の貼り紙だけが薄暗い部屋の窓に貼られている。
冬のある日、あたしは久しぶりにアイツに電話した。
いつもよりも長いコールのあと、アイツの声が聞こえてきた。
「もしもし、久しぶりだな。どした?」
「・・・悪いんだけどさ、迎えに来てくんない?」
「え・・・?何言ってんの?」
「駅の東口の、銅像の前。早く来てよ。」
あたしは、学校もバイトもサボって、アイツの地元に来てしまった。宿の予約も取らず着替えも持たず、気が付いたら、飛行機に飛び乗っていた。
しばらくすると、雪がしんしんと降る駅に、アイツのキューブがやってきた。アイツは車を停め、あたしに歩み寄ってくる。
「何してんの、こんな所で・・・。」
アイツの優しい表情にあたしは涙が溢れそうになるのをこらえて「お腹空いた!ラーメン行こ!」と、今度はアイツのキューブに飛び乗った。
ラーメンの後に、アイツは夜景が見える展望台に連れて行ってくれた。あたしが今まで見た夜景の中でも三本の指に入る夜景だった。
「びっくりだよ。まさかここで会えるなんてさ。」雪玉を投げてアイツは言う。
「あたしね、ずっと言うのを忘れてた言葉があったの。」二個目の雪玉を作るアイツにあたしは言った。
「前に、あたしの事好きって言ってくれたじゃん。あたしも・・・、君が好き。まだあたしの事、好きでいてくれてる?」
一言一言発する度に涙が溢れて、カミカミになってうまく喋れない。
そんなあたしの涙を拭いて、アイツはさ、優しく微笑んで、こう言ったの。
「ありがとう。」
それを聞いて、あたしはアイツの腕の中で、ただただ泣き続けるだけだった。
アイツのキューブと同じ色のキューブを街で見掛けると、スカッシュの香りとOASISの曲を思い出すの。
それと、あの夜景を背に「ありがとう」と言ったアイツの優しい表情も、思い出すんだ。
本作はCAR LOVE LETTER「Necessary」、「Voiceless regret」の姉妹作品です。そちらもご覧いただければ、よりいっそうお楽しみいただけると存じます。




