言いにくいこと
ーーもしそれが、『運命の女性』だったら……
だったら、話が早いのでは……?
けど、そんな証拠あるわけないし、そもそも記憶がほとんどない。この状態で、どうやってその子を探し出すんだよ。
ーーーーちょっと、期待してしまった。
そのまま俺は眠りについた。頭の中は、モヤモヤしたまま。
「でさー、悠花もそのまま寝落ちしちゃってさー、」
朝から他人の惚気話に耳を傾けている時間ほど、憂鬱な時間はないと思う。春の恋愛は順調のようで、日に日に機嫌がよくなっているようにも見える。そのまま爆発してくんねぇかな。
「そいえば、閏の隣の女子。どうだった?」
雫さんのことだ。
「ああ。可愛いよな。お前の言う通りだった」
「だろ! びびるよなー、あの子、双子らしくてさーー」
それ以上は聞きたくない。
俺の中で謎のトラウマが生み出されている。
『ねえーーーー』
ーーーー
二卵性双生児。
双子には二種類ある。
一卵性と、二卵性。
一卵性は本当にそっくり。ドッペルゲンガーのような感じ。
昔、二卵性の双子にあったことがある。マジで似ていない。声ももちろん、性格も見た目も何もかもが似ていなかった。
まるで、この姉妹のように。
「……あれ」
「ん?」
「なんだ、雫さんだと思ったけど雅か」
「けどって何よ。私じゃ問題あんの」
声だけは似ているのかも、と思った。
「あのさ、あんた外部生じゃん」
「何悪いか」
「まだ何も言ってないでしょ」
こいつとは初対面から噛み合わない。
「なんで尚英きたの」
「なんでお前に話さんとならんの」
「いいじゃん別に。興味ないけど」
だったら聞くなよ。
そういえば、この高校は中高一貫。大学までがエスカレーター式の私立高校である。高校から外部生として入学してくる奴は俺含め若干いる。
俺がこの高校にきた理由はいろいろある。大きな理由として特待生制度だ。
家庭環境がアレなだけに、小学校時代から極貧生活を余儀なくされてきた。高校も行くか迷った。
けど、唯一の俺の武器『学力』が輝いた。
この高校に指定特別特待生として授業料、入学金全額免除、さらには学業特別奨学金の選定生徒として毎月5万円の給付型奨学金が俺の懐に入る。こんなオイシイ話は、ないよな。
理由はあと二つある。もう一つはーー
「もういいわ、呆れた」
「……は?」
そう言って雅は教室を出て行った。あっちから聞いといてなんなんだよ……
俺は席に戻った。
「おはよ、ジュンくん」
隣には、相変わらずの女神の姿が。
「お、おはよ……!」
「ごめんね、雅意地悪してない?」
「えっ……! ぜ、全然! 聞いてたの?」
「ううん、見てただけ」
そうか、見られてたのか。
「あのね、雅のことなんだけど……」
「うん……?」
……
沈黙。
「……あの子、不器用だから。人間不信と言うか……とにかく、不器用なの」
「そうなのか……」
俺には、ただ口の悪い性悪女に見えたが。
ただ、雫さん今何か言いたそうだった。何か言いにくいことでもあるのだろうか。