10年の約束
黒髪ロングで容姿端麗、透き通るような美声に輝かしい丸い瞳。雫さん。
スタイルも顔も悪くないが性格態度最悪。雅とかいう女。
今俺は、後者の方に無理矢理廊下に連れ去られている。どういう状況だよ。入学式だぞ。
「お前さ、雫になんかしただろ」
「何もしてねえよ。なんだよ急に……」
そもそも俺は外部入学生。雫さんとは今日初めて出逢って初めて話したのである。無論、こいつも。
初めて出逢った相手に何かをしでかすような勇気は、持ち合わせていない。
「はあ! ? あのな、雫が自分から話しかけるなんて、地球がひっくり返ってもありえないんだよ。わかるか?」
だから、わかるはずがない。初対面なんだっつの。
「話しかけられたんだよ、あっちから。そんなに珍しいことなのかよ」
「嘘つくな! じゃあなんだ、あれか、マインドコントロール的な」
「……はぁ」
こういう女は本当に苦手である。口調が悪くて、落ち着きのない女。今まで出逢った経験は少ないが、出逢ったときは即座に関係を断つように心掛けている。後々いいことがないからな。
このあとも無駄に長い俺への取り調べが続いた。なぜ、この高校に来たのか。どこに住んでいるのか。出身中学などなど、出逢ってばかりの人間にここまで俺の情報を提供したのは初めてである。しかもこんな悪女に。
「……まぁ、だいたいわかったわ。もういいよ、用済み」
「は……? なんなんだよ、本当お前」
「それはこっちのセリフ。とにかく! 雫に手出したらわたしが殺す契約だから」
どんな契約だよ。また死ぬ系の契約がひとつ増えてしまった。
入学式だけでこんなに疲れるものなのだろうか。俺は家に帰ってきて速攻ベッドに横たわった。
ーーでも、雫さん。マジ可愛かったな。
お世辞ではなく、久しぶりに感じたこの感覚。何年か前にも、同じような感覚に浸った経験がある。
もう10年は経つだろうか。あの頃が、俺の恋愛のピークタイムだった。
10年前の俺。はっきりとは覚えていないが、あるひとりの女の子に全力で恋をしていた。
そして、ある約束を交わし、以来その子とは会っていない。
よくあるベタな恋愛小説のような展開だが、これ以来俺は一切恋愛を経験したことがない。
恋愛どころか、なんとなく女性との接触を避けていた。
それくらい、好きだったとも言える。
まぁ、昔の話だが。
ちょっと想像した。
ーーもしそれが、『運命の女性』だったら……