二卵性双生児
ーーこのコ、くそかわええ……
俺としたことが。一目惚れである。
大きな瞳に小さな顔。光り輝いている艶のある長い髪。
もう一度言う、一目惚れである。
完敗。
ーーもう、この子でお願いします。神様。
「……よろしく、ね」
「んああ!! はいっ! よろしく……って、え」
「わたし、太田雫。ここの高校の附属中学出身なの。よろしく。外部入学の子、だよね」
そう。ここ尚英学園高校は中高一貫であり、中学校からエスカレーター式で入学する生徒もちらほらいる。
ーーいや、そんなことより。容姿端麗な上に美声ときた。これは俺、惚れたな。
「そう! よ、よろしく! しず……太田さん」
ーーまずい。自分で言うのもなんだが、俺は今日に至るまでまともに女子と話したことがない。
今、死ぬほど緊張している。死ぬのは嫌だが。
「ははっ、雫でいいよ。君は?」
「お、お……俺、閏! 水嶋、閏。ジュンでいいよ」
「うん、わかった。ジュンくん。いい名前だねー」
ーーふう。雫さん、か。
しかしこの調子だと、女子と付き合うどころかロクに会話も出来ないな。確かに雫さんは美人だし、周りの女子を見渡す限りずば抜けている。雫さんだからってのもあるだろう。
それにしても、こんなコが『運命の女性』だったらどれだけ最高なことだろう。逆に死んでもいいかもしれない。
『雫ーーーー!!』
「うおっ!!」
廊下から鬼のようなスピードでこちらに向かって走ってきたのは、雫さんには劣るがこれまた顔立ちが良くスタイル抜群の女子。スカート丈がきわどいラインを攻めており、この年頃の男子高校生にはさぞかし刺激が強い。
「ちょっ……雅! 脅かさないでよ!」
「クラス離れちゃったねー。相変わらず可愛いなーお前……ん」
こちらを鋭い目で睨んでいる。なんだよ、その睨み方、どっかの悪魔に似たものがあるぞ。
「お前、雫に軽々しく話しかけてんじゃねーよ」
ーーーー!!
なっ…………!!!
「……はああああああ! ?」
「ちょ……! ごめんねジュンくん、このコこういう感じだから」
「は……はあ」
しかし何なんだ、この女は……
「紹介するね。ジュンくん。外部入学生だよ」
「ふぅーん。なんか知らないけど、雫に手出したら殺すから」
何だか俺は、新たな悪魔に出逢ってしまったようだ。
「よ…………よろしく」
「雅。太田雅」
「お……お?」
あれ、同じ苗字?
……偶然か。
「双子なの」
……へ?
「ふた……ふたり、雫さん! ?」
「へへ、驚いたでしょ。私たち、双子なんだ」
まだ出逢って1時間も経っていないが、展開が早すぎる。
ーー双子って、同じ腹から生まれてくるやつですよね?
似てなさすぎる! 二卵性双生児だとしても、明らかに雫さんに吸い取られすぎてる! 運命は残酷だ……
「……で、ジュン。お前、ちょっと来い」
「は……? 何で急に」
「いいから来い」
「……はぁ」
威圧感に負けて、廊下に連れ去られる。
ーー何だよ、出逢ったばっかりの人間を急に連れ出して……
雅はお構いなしに、俺の襟元を雑に掴んで廊下に引きずり出した。
ーーーーこいつだけはないな。
ふと、心の中で誓った。