恋愛契約
まあ整理すると、どうやら俺が死んだのは事実で、ここは死後の世界らしい。俺の前にいるこの黒スーツ適当男は『ダウト』とかいう名前の悪魔らしく、俺を生き返らしてくれるらしい。悪魔って、こんなんなのか……
「……わかった。とりあえず、その条件ってのは何なんだ」
「うむ、やっと聞く気になったか」
悪魔ダウトは、こちらに体を向け、ゆっくりと話し始める。
「まず、生き返ったお前は2017年3月1日。死んだ次の日から人生が再開する」
「おう」
「お前の事故は、なかったことになる。つまり、2月28日はお前にとって平凡な1日だったということになる」
「お、おう」
あれ。大丈夫か、これ。
「ただし、そのまま普通に生活していた場合、3年後にお前は死ぬ」
「……お? おお」
「それまでに、お前は『運命の女性』に、永遠の愛を誓え」
……こいつ、ふざけ始めたのか?
「……もう1度、いう。明日からまた生き返って、3年以内に『運命の女性』を見つけ出し、永遠の愛を誓え」
「…………………」
「……もういちど」
「もういいわっ!! いやいやいやおかしいだろ! それが条件か? 明らかにふざけてないかお前!?」
「ふざけてなどいない……フフッ」
悪魔ダウトは不敵に笑っている。初めて悪魔らしいと思った。
……いやそんなことより、意味が解らない。これって、生き返るための条件なんだよな?なんか、中学卒業式のノリとか、合コンノリとか、そういうヤツにしか聞こえないんだが!?
「……じゃあ。その、永遠に愛を誓うって、何」
「決まってるだろ、運命の女性に『告白する』か『告白される』。そして『付き合う』ことだ。簡単な話、お前は愛すべき女性に告白し、永遠の愛をーー」
「いやだから! 何だよそれ! それって、何の意味があるんだ? お前に何の得もないだろ? それでいいのか?」
何かがオカシイ。
要は、俺が運命の女性(?)に告白して、OKを貰えばいい話。俺が女子の方から告白されてもいいらしい。
確かに、俺は恋愛経験もないしそもそも女子と話す機会なんてほとんどなかった人生だった。それでも、生き返る条件にしてはムシが良すぎるんじゃないか……?しかも、ただの『付き合う』が『永遠の愛』って、重すぎだろ……
「あー、そうだな。そう思うのも無理はない」
「他に条件、あるのか」
「よく聞け。まずお前の運命の女性は、既に決まっている」
「は……」
頭の中が真っ白になった。悪魔ダウトは、説明を続ける。
「お前はその女性を、探せ。『付き合う』チャンスは1回。もし、仮に運命の女性以外を選択した場合ーー」
俺は、息を飲む。
「その日の0時を回った瞬間、お前は死ぬ」
悪魔ダウトの言い分はこうだ。『付き合う』チャンスはたった1回。既に指定されている女性以外と俺が結ばれた場合、その日の12時が回った瞬間、俺は死ぬ。かといって、何もせず三年間が経過した場合も、死ぬ。
「まってくれ、だったらよ。その『運命の女性』が他の男と付き合った場合は……」
「ああ、死ぬよ。お前」
「……じゃあ、そもそも告白に失敗した場合はーー」
「死ぬよ?」
「……」
無茶苦茶だ。ほぼ死ぬじゃねーか。
「だ・か・ら。簡単な話、お前は既に決まっている『運命の女性』と『付き合う』ことが出来れば、そのまま生きていけるってこと。わかんねー奴だな」
「簡単じゃねえから言ってんだろ!」
「ほー。じゃ、やめるか?」
ドクッ。
俺の中で何かが、フラッシュバックした。
ーーもし、生き返れるなら……
「……わかった。やるよ。『運命の女性』やらを見つけて、そいつと付き合えばいいんだろ」
「……よし。じゃ、すぐ生き返る準備するから」
異常に軽い。大丈夫か、コイツも俺も。
「あー。あといい忘れてた」
「なんだよ」
「永遠の愛ってのは、そんな軽いモンじゃねーんだ」
「だから、なんだよ」
「いい忘れてたのは最後の条件。お前はその『運命の女性』をーー」
ーー本気で、愛すこと。
こうして、俺と悪魔の3年間の恋愛契約が始まってしまった。
俺にとっての、命懸けの3年間が。