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本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
9/53

8.絶望

とても短いです。

 朱の絨毯が敷き詰められている。

 私の手もまた、似た赤で塗られていた。


 呼吸が荒い。どうしても、整えられない。

 原因は判っている。




 夢はいつも、幸福か絶望で分けられている。

 あの夢はきっと、絶望側の夢だ。


 魔法を使ったその夜、夢を見た。


 ユノアが魔法を見せてくれる夢だった。教えるとは違ったが、充分なほど見せてもらった。

 見せることしかできなかったのだろう。




 始め、それはあまりにも曖昧で、(うつつ)のこととは思えなかった。まだ夢を見ているのだと思いたかった。


 ナイフが重く感じた。寝起きではっきりとしない意識の中、両手で強く握り締めた。

 突き刺すには、結構な力がいる。それも、この小さな身体では、助走が必要だ。軽い小走りで、全身を支えに、何の躊躇いもなく。


 刺した。


 じわりと、そこを中心に鮮血が流れる。肌を、服を、床を。あらゆる物を一色で染め上げ、赤い部屋が出来上がった。


 私の目には、世界の色が赤だけに映った。


 時の止まった部屋で、重いものが倒れる音がした。

 静寂が破られた。夢から引っ張られたような錯覚がした。


 一人の男が立ち、こちらを見ていた。

 蔑み、呆れ、憐れみ、哀しみ。

 様々な感情の入り交じった瞳で。


「ゆのあ」


 ようやく出た言葉は、倒れた者の名だった。


「殺せ」


 男が言う。


 私の身体は、それに従って動く。


 泣きたかった。

 泣けなかった。


 叫びたかった。

 叫べなかった。


 私は、ユノアを殺した。他ならぬ自分の手で。コントロール不能となった腕が、何度も振り下ろされては血飛沫が舞う。

 ユノアの目には、もう既に光がなかった。私はそれを眺め、尚もナイフを振り下ろす。


 何がなんだかわからず、消えられるものなら消えてしまいたかった。何かを感じることもなかった。




《確認しました。

 称号『鎖繋者(ツナガルモノ)』を獲得……成功しました》

《確認しました。

 称号『鎖繋者(ツナガルモノ)』により、スキル『束縛(アシカセ)』を獲得……成功しました》


《確認しました。

 称号『従順者(ジュウジュンナルモノ)』を獲得……成功しました》

《確認しました。

 称号『従順者(ジュウジュンナルモノ)』により、スキル『忠犬(イヌ)』を獲得……成功しました》


《スキル『束縛(アシカセ)』の効果により、個体名ユノアナの能力を引き継ぎます。

 完了しました》

《スキル『忠犬(イヌ)』の効果により、全てのスキルの効力が上昇しました》


 イレイアは相変わらず平常運転で。私は放心状態で。男は無表情無言で去っていく。

 男が扉を閉めた瞬間、身体にかかっていた力が抜けて、床にへたり込んでしまった。


「どうしてこうなった」


《回答不能》


「これからどうすればいい」


《回答不能》


 生きなきゃダメだよ、か。

 (みこと)であった頃、雪乃に言われた言葉。


《……解決案を提案。

 生きることをお勧めします》


「はは。イレイアにも言われちゃった」


 生まれ変わったのに自ら終わらせるのは、バカと同じになってしまうだろう。なら、生きるしかない。




 荷物を全て持ち、出立する準備を行う。とはいえ、荷物はほぼ無いに等しい。

 さあ、出かけよう。そう扉に手をかけた時、昨日までなかった物があることに気づいた。

 テーブルに何かが置いてある。金属製のプレートだ。両端に穴が開けられてあり、紐が通されている。少々不恰好だが、異世界感が出ていていい。ある物はもらって行くことにする。


 ユノアを埋葬しようにも、私にはできなかった。この体ではどうしようもない。


 今度こそ扉を潜り抜ける。


 あてのない旅が始まった。

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