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本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
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35.小さき者は欲する

 視界からディストが消えていく。もっと話したいことがあった。聞くだけでなく、話がしたかった。神としてではなく、友として接したかった。


「またね」


 ディストの言葉に重なる勢いで伝えた。どこまで届いたかは定かではないが、届いていることを願う。

 白に蒼が色づいた。



 

 ……戻った?


 以前と変わらない仰向けの状態で、私は元の空間に戻っていた。空からは雲が消え、太陽が高い位置に顔を出していた。時間はあまり経っていなさそうだ。

 体を起こそうと力を込める。しかし、思うように起き上がれない。まるで、白い空間にいたときのようで不思議だった。

 ディストの助言を思い出し、徐々に力を込めてみる。


 やっと起き上がれた。


 体に違和感がある。何故かとても重く感じた。


「ようやく起きたか、(ぬし)


 聞き覚えのある言葉に既視感を覚える。ディストにも似たようなことを言われた。声のした方を向くと、そこには幼女が一人、不満げな顔でこちらを見ていた。


「呪器だと分かっていて触れる愚か者がいたとはな。ま、そのお陰で妾も七位と戦えるのだが」


 独白のようにロリが言う。戦闘において触れさせるつもりだったのだと分かる。


「君、名前は?」


 取り敢えず名前を聞いてみる。呪器が名前を持っているかは知らないが、あるならば知っておきたい。


「妾の名か。妾はロィファ。主ならば何と呼んでも構わん」


 起き上がっても未だ不機嫌な顔を貼り付けたままの呪器は、いちいち態度が大きかった。

 許可も貰ったことだし、好きなように呼ばせてもらおう。


「ロィファ。君は七位、つまりアリスクラストと戦うのか?」

「なんだ、知っておるのか。ならば話は早い」


 正直言って聞きたくない。聞かなければならないことは分かるのだが、ある程度の予想はついていた。

 私の知るゲームのストーリーとは異なる展開。もしこれが、新しく実装されたバージョンであれば問題はない。全てを知っている訳ではない為、新たなストーリーは私にとって関係なかった。しかし、これが何者かの手によって改変されたのだとしたら。


「……という訳じゃ。七位の(きた)る半年後に備えるぞ!!」

「………………………………は?」


 間抜けな声でも出させてほしい。絶句するより良かったと思う。


 半年後、だと……。




 衝撃の告白から立ち直ってすぐ、私はオークのオーガへの戦争を止めるよう指示した。呪器は奴隷同様、主人の命令に絶対服従らしい。ありがたい設定である。

 どうしてそのようなことをしたのかと問えば、七位に使われない為なんだとか。色欲の魔女らしいので、そういうことであろう。


 疲れたし、帰ろ。


 まだ体が重かった。理由は定かではないが、恐らく疲労からだろう。しかし、そんな私にこの世界は鬼畜だった。

 オーガの里までの道と言えない道を歩いていた。ロィファが手を繋ぎたいと言うので繋いでやった。幼児が二人、手を繋いで大自然を歩くという異様な光景が出来上がったわけだ。それは別に問題ではない。

 問題はオーガの里に着いてから起こった。いや、正しくは問題に突っ込んでいったと言うべきだろう。異常を悟りはしたが、見て見ぬふりをするつもりだった。問題が問題でなければ……。


 止めたはずなのだ。ロィファの能力によるものではない。確実に彼らの意思によるものだった。

 私にとってそれは、その光景は、地獄と呼ぶには生温いものを彷彿とさせた。実際の日数では、今日このときの一日。過ごした時は一週間を超えていた。焼き付けるにはあまりにも長く、そして重い時間だった。

 良くないことが起こるとき、そこではいつも嫌な炎が嗤っている。オーガの里でもまた、嫌な炎がこちらを見つけて嗤っていた。




「助け、て」


 掠れ声でそう言う少年が、私の腕の中にいた。里全体に回った炎に焼かれ、オークに出会うことなく逃げてきたオーガだった。

 私の回復魔法では、彼の火傷の半分程しか癒やせなかった。


 回復魔法は他者の魔力への干渉。被干渉者の生命力に依存する魔法である為、限界は魔法を行使する者とは関係ない。と、考えるのが普通だ。しかし実際は違う。

 如何に他者の魔力に干渉し、本来の生命力を引き出させるか。それが回復魔法の優劣だ。魔力操作能力に加え、誰の魔力にも干渉できる順応性が求められる。


 足りない。まだ、足りない。


 少年の呼吸が細くなっていく。

 炎の音が聞こえない。

 風のような音が妙に耳につく。

 自分の音が聞こえない。


 ――また、繰り返すのか……?


 一瞬と呼べる程短な短な空白の時間。ロィファの声はそれを叩き割った。無邪気で高慢な幼女は、自らを知っていた、愚かではなかった。


「妾の名はロィファ。主の願いを聞き届ける者ぞ」


 心臓がひとつ、高鳴った。


「求めよ。欲せよ。強く、強く。より、強く」


 鼓動に掻き消されてしまわないか、不安になった。


「汝が望み欲したのならば、妾は如何なる力をもその身に与えよう」


 言葉が花びらのように降ってくる。柔らかいと思ったそれは、意外な強い芯を持っていた。


 力がいる。より強い力が。


 ロィファがたとえ悪魔だとしても、私は今この状況下で同じ行動を取っていただろう。


「救う為の力を」
















 私と彼女は、もう離れられぬ程にきつく結びついてしまっていた。

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