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本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
37/53

31.ペテン師はペテンを嫌う

 朝食の席、リュフォネの様子が明らかに可怪しかった。

 名前を呼べば、リュフォネから話があるときた。何か欲しいものでもあるのかと思っていたが、見るからに思い詰めたような顔だった。


 過去も、未来も。私はリュフォネのことをあまり知らない。ゲームの中に出てきた。それだけで知っているとは言えないだろう。

 リュフォネは謎の人物だ。プロフィールが公開されず、イベントの特殊キャラとして期間付きで登場した。どのストーリーかはまだ思い出せない。




「それで、話って何?」


 朝食後、場所を移してすぐに私はリュフォネに尋ねた。軽い話でないことは空気が伝えてくれる。

 リュフォネが言った。


「フェルは、俺に秘密を話してくれた」


 初めての友達だもの。そりゃぁ話すよ。

 私の秘密は、優越感を与えてはくれない。代わりに心を蝕むから。秘密を話して楽になったんだよ。

 話したら、リュフォネも私と同じように感じてくれる?


 リュフォネが続ける。


「フェルは、俺なんかよりよっぽど凄い」


 私はリュフォネがいないと、皆がいないとまっすぐ立てない。歩けない。リュフォネのように前を向いて歩くには、私はあまりにも弱い。


 リュフォネの声が震える。


「フェルは、きっと……誰も見捨てない」


 私は救ったとは思っていない。むしろ救われているのはこっちの方なんだよ。怖くて怖くて仕方ない、ただの臆病者だよ。


「お願いだ……奴隷を、救ってほしい」


 まるで十歳にも満たない子供のように、吐息ほどの大きさでリュフォネは言った。

 それが心からの願いで、それを言葉にする為にどれだけの勇気を出したかは計り知れない。


 ああ、そうか。そう、だったんだね。

 全てを悟った私は、自ら拒否権を手放した。


「……………………。

 うん、()()()


 やっと私と目を合わせてくれた、笑ってくれた。

 たった一言。それだけでリュフォネが安心してくれたことが、私には何よりも嬉しかった。




 ベレメントを倒したからといって、休んでいるわけにはいかない。リュフォネの様子を見るに、奴隷のこともできる限り早くした方が良さそうだ。

 明日は発注していた服が届く。明後日は再戦日だ。動けるのは今日しかない。


 すぐさま偵察に出ていたナハトアを呼び戻す。

 豚頭族(オーク)大鬼族(オーガ)の戦争を、ただ利用するために。


「おかえり、クク、ルル」


 ナハトアの姿のククとルルを可愛がる。気持ちよさそうに目を細めていて愛らしい。

 他のナハトアは見張りについていて撫でてやれない。今日はククとルルだけだ。


「お疲れ様。もう休んでいいよ」


 いつもより眠そうだ。無理をさせてしまったような気がして申し訳ない。


「あとは俺がやる」


 もう眠ってしまった二人に囁く。

 もうすぐ始まる、始まってしまう悲劇を止める。飛びかかる火の粉を払わなければ、私の宝物が壊されてしまう。だから、その前に。


《目的に合致する門を発見しました。

 逆算し読み込みます。……………………読み込みに成功しました。使用可能な門に変換し記録しました》

 ありがと、イレイア。これで準備が整った。




 時間が無情に過ぎてゆく。そう思っていたが、準備が済めば案外ゆっくりできるものらしい。

 逆に暇なのが怖い。

 今はそんな悩みを持っている。


 日付が変わり、予定通り服が届いた。

 ひとつ違ったことといえば、デルク達の表情が柔らかくなったことくらいだ。

 あまり気に留めることでもないだろう。


「フェル様」


 お披露目をしている最中、シギナから声をかけられた。飲みの誘いだ。自分自身の年齢が不明な為前世を基準にしているが、この世界では飲酒可能な年齢らしい。そもそも魔物に飲酒規制はないけれど。

 場所を移して横並びに席に着く。蝋燭の火がダークウッドに揺らめく、雰囲気の良いバー風の一室だ。高い椅子に座るのに抱えてもらったが、私は主だ。


「どうぞ、フェル様」


 渡されたグラスに口をつける。まだまだレベルは低いが不味くはない。これを造ったのは誰だっただろうか。


「フェル様、今日ゲノドが来ましたよ」


 それは唐突に始まった会話だった。飲み途中だったがグラスを口から離し耳を傾ける。


「何も話さずに連携がとれています。凄いことですよ」

「そうか」

「知っておられましたか。これでは、色々質問されたことも知っておられるようですね」

「質問? しているだろうとは思っていたが、どんなことを聞いているかはしらないな。知っちまったら詰まらないだろ」

「フェル様のことについて色々と、ですよ」


 へ〜、俺のことをね。

 明日が試合だけど、どれだけ情報を集めるつもりなのだろうか。全くと言っていい程情報が集まらないのか。

 一つの属性しか使わないと大見得切った以上、それだけで互角にはやりあいたいと思っている。


 酒が回っていたのだろう。私は言葉の選択を誤った。

 そして、酒が回っているのは私だけではなかった。


「なんて言ったんだ?」

「知ってしまってもいいんですか?」


 まだ誤りに気付かない私が、ちらりと横を見やる。そこには大人の笑みがあった。そんな私に、シギナは構わず口を動かした。


「フェル様が可愛いものがお好きだとか、ゲノド達をとても大切にしていらっしゃることとか、スライムを抱いて寝ているとか、流狼達にブラッシングしていらっしゃることとか」


 ――!?!!!??!?!!


 顔が急激に熱を帯びる。一つひとつ言葉にして並べられる度、心臓がドクンと返事をする。何を言っているのだとシギナを見るが、私のことはお構いなしにぺらぺらと溢し続ける。


 酔ってる!?


 そんなシギナを、私はグラスを強く叩きつけて静止させた。




「明日ですね、試合」

「…………、あぁ」


 酔いを覚ましたシギナが言う。

 私も大分熱が下がった。一度でも言われればまた赤面しそうだ。


 まさか、本当に話してはいないよな……。


「勝つおつもりですか?」

「さあ? どうだろうな。勝っても負けてもアイツらの為になるんだから」

「流石ですね。フェル様のお考えを全て見抜くことは、出来そうにありません」

「明日も早いんだ、おやすみシギナ」

「おやすみなさいませ、フェル様」




《選出した門から一つを選択してください》


『➢スイートピー

 ・ベゴニア  』


 ピッ。


『・スイートピー

 ➢ベゴニア  』


 ピッ。


『➢YES ・NO』


 ピロン。


「……転移魔法――無名霧想」


 ……………………ごめん。


 眩い光が収まり、そこにあった〝モノ〟が消えた。未だ脳裏に焼き付いたままのそれが、妙に痛く胸を刺す。

 嘘を吐いた。罪となる嘘だ。誰かを傷付け、己を裏切る嘘だ。


「ありがとうリュフォネ。こんなことに協力させちゃって、ごめんね」

「俺は、フェルが俺を頼ってくれたことが嬉しいよ。何でも一人で抱え込むなよ、フェル」

「…………うんっ。ありがと……、ありがとう」


 私みたいなヤツに付き合ってくれるリュフォネが、私の中で大きな存在になっていた。

 原因の一つは排除した。それでもまだ、私の中の不安は消えていない。見てしまった、知ってしまった残酷な未来を、私はなんとしてでも変えなくてはならない。


 たとえ、何度繰り返そうとも。

 地獄だってことは端っから知ってんだよ。その先が地獄でないのなら、私はそこへ生きたい。


 幾つもの影に見送られながら、私は振り返らずに「いってきます」とだけ応えた。


 仰ぎ見た空が今、雨色に染まりつつあった。




 オーガの村は川を渡り、リザードマンの住処を過ぎたところにあるという話だった。

 擬態とは便利なものだ。流狼の姿になって森を駆けられるのだから。


 森を駆けること数分後、小さな小さな雨粒が空から大量に降りてきた。戦場が、泥濘(ぬかる)

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