表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
35/53

29.選んだ道は未来を変える

 持っている中で最も丈夫な服を選び着替える。行く先は決まっていた。昨夜、記憶を見たことで解決したのだ。

 捜索に出していた分身を森で回収し、更に奥へと進む。まだ肌寒い時間帯で、木陰ではより寒さを感じた。


 遠回しにしていた侵食地の問題。緑が減り荒れ地となった森の一部だが、私はよく調べようとしなかった。スライムの話を聞くまでは。

 森の潤いは魔力によるものだ。侵食されたのは、魔力が何者かに吸われているという証拠である。リスラはスライムに、魔力の失われた土を食べさせたらしい。スライムの食による進化はそれ相応の量が必要となる。


 では何故、ガレウの話したスライムはトレントだったのか。


 小さな体で辿り着いた荒野の中心地は、球形に土が掘られていた。まだそれは見えていない。あと二日も掘られれば見えてくるだろう。

 トレント、魔木の根が。


 荒野ができたのは数ヶ月前だと、ゴブリンに知り合った頃に聞いた。もし、もしここにアレがあったなら……。

 異常なトレントの成長、魔物への精神攻撃、死に戻りが始まったきっかけ。全部辻褄が合う。


 土魔法は想像がしやすい為扱うのが楽だ。リスラがスライムに掘らせた分、私が魔法で掘り起こすのに時間なんてかからない。そして、推測が確信に変わった。

 私の目に映ったのは、地下で成長を続けたトレントの根と、それに絡まれた箱だった。


 トレントについての情報は、イレイアから聞いていた。地上に出ないこの種のトレントは、ベレメントと言う中級種らしい。地下で成長することで発見や討伐が困難なんだそうだ。魔法が使えれば討伐は容易だとイレイアは教えてくれた。精神攻撃をしてきたのは、このベレメントが闇魔法を扱えるかららしい。

 私は今、とても不機嫌だ。原因が分かったことでそれに油が注がれている。この感情を制御するなど到底できない。と言う訳で、土魔法でこのベレメントを丸裸にしようと思う。ベレメントは光に弱い。その上、闇属性ならよりダメージを与えられるだろう。

 別にこのベレメントに罪はないのだが仕方ない。従魔が狂ったのはこいつの所為で間違いはないけれど、不憫だと言わざるを得ない。


 試練か、嫌味か。その為だというなら、人さえ巻き込み利用するのか?


 怒りに任せたと言える操作で、私は土魔法を使う。手を空へと向け、そこに魔力を溜めていく。足元の土がペリペリとめくれ、それらが土塊となって空中を舞う。数が次第に増え、土塊の移動速度が上がり、小さな砂嵐のようなものが私を中心に出来上がっていた。

 魔法は環境を利用すると、本来の何倍にも強くなる。私はそこにあった物を操作しただけで、魔力を土に変え生み出した訳ではない。魔力は使えば使う程成長するのだが、アイツの為に魔力を少しでも消費することが不快でならなかった。


 ベレメントの姿が顕になる。木の葉の遮りなどないこの荒野には、日の光が存分に当たることだろう。退かした土は邪魔なので、そして早く終わらせたいのでお見舞いすることにした。お陰で早く終わったが、気分はまだまだ晴れそうにない。


 それもこれも、全てアイツの所為。


 自分で上げた土埃にさえ腹が立つ始末である。これは、会ったときに文句の一つや二つ言う権利はあるだろう。いいや、言わなければ気が済まない。

 ベレメントが朽ちてクレーターとなった荒野に、ぽつりと箱が一つ置いてある形になった。箱を開けてみれば、そこにはビー玉のようなものが入っていた。

 当然のようにそれに触れる。それから起こることを予測しながら。予測した通り意識が遠退くのを感じ、それに身を任せるように目を閉じた。




「……早過ぎるぞ」


 苛立ちの籠もった声が頭上から降ってきた。早いとは何のことだろう。閉じていた目をゆっくり開く。分かっていたことに後悔するが、巻き戻す術はない。


「はああぁぁぁぁ」


 思わず盛大に溜息をついてしまった。取り敢えず目を逸らす。


「なんだ、その溜息は」

「……いや、その、…………えっと」


 上手い言い訳が思い浮かばず、目が宙を泳ぐ。きっと嘘で誤魔化すことはできない。

 影のない白い空間に、私と()だけがいた。先ほどまでいたはずの荒野ではない。ここは、呪器という名の鍵によって開かれた神との謁見の間。尤も、まだ二回目で死神としか会っていない為、死神としか謁見できない可能性もあるが。

 ごめんなさいと謝りつつも、理由だけは述べない。私は遅くても会いたいとは思わないなど、神に言える訳がない。


「ごめん、ディスト。先に謝っておくよ」


 神に対して大変失礼な言動を、私はこれからしようとしている。文句の一つでも言わなければ気が済まないという理由で、神相手に命知らずな行動をとるのだ。先に謝っておいた方が良い。

 もう一度、神、死神の名前を呼ぶ。


「ディスト」


 いよいよ訳が分からないといった様子で、ディストの眉根が寄った。


「ディストなんでしょう? 仕組んだの全て」

「――っ!」


 神様とは嘘が下手なのか。ディストの狼狽えようは、そう思えるほどだった。

 偶然にしては出来すぎているくらいに、呪器のあった地点はユノアの家からほぼ同じ方向だった。ベレメントより奥の森はまだ行っていないが、そこにあるものはある程度予想がついている。私の考えを一つずつ述べ、それらが推測ではなく事実であると裏付ける。


「――だから、ディストが仕組んだことだと思った。違う、かな?」

「…………そうだ。君の推察通り、私がやったことに間違いない」


 若干躊躇いながらディストが応える。何故だか、ディストが認めたというだけで怒りが発散してしまった。良かったと思うべきなのかさえも分からない。


「すまない」


 長い沈黙の後、ディストがぼそりと呟いた。


「これから君には多くの苦労をかける。私が望まずとも、君の未来は過酷なものになるだろう」

「それは、神様からの助言か何か?」

「いいや、助言ではない。……上手く言えないが、君に対価を払うべきだと思った」


 まっすぐに私を見る嘘偽りのない神の瞳が、少しだけ人間らしく感じた。だからだろうか、神様相手に、私らしくないことを言ってしまったのは。


「友達になってよ」


 友達なら、対等になれるかな。なんて、バカなことを考えた。対価としてディストは断れないとわかっていたから、きっと口が滑ってしまったんだ。


「それが君の願いか」

「うん」

「それでは今から、私と君は友人だ」


 友達宣言など普通の友達はしないというのに……。


「神様ってやっぱ、不器用なんだね」


 その言葉を最後に、空間が歪み始めた。終わりが来たのだ。届くか届かないかの声でディストに言う。


「神様も、泣いていいんだよ」




 視界が歪み、滲み、やがて色を帯び始める。しかし、茶色が多く綺麗とは言えない。

 私は荒野で一人倒れていた。時間は殆ど経っていないらしく、太陽はあまり位置を変えていなかった。


「戻ってきた……」


 肺に収まるだけの空気を吸い込む。空気が生きていることを教えてくれる。終わったとは言えない。それでも、一つ地獄が去った。それだけで息ができる。これだけが呼吸に必要だったんだと、今頃になって気付いた。


 オークとオーガの件、ディストの言う過酷な未来の件、少し前に見たゲノドの夢の件。まだまだ知らない未来があるけど、今はひとつ、深呼吸くらいしてもいいよね。


 仰向けに寝転がり、よく晴れた青空を味わう。少し前の私には、天気を気にする余裕もなかった。

 余裕綽々な訳ではない私はすぐに蒼い空に文字を浮かべた。


約束(トップ・シークレット)

姿形のない装備品。装備していない時は玉のような姿をしている。人によって色の見え方が違うことが特徴。


 ランク:SSS【呪】

 種別:???

 効果:秘密としたモノを必ず隠し通す。使用者の意思に関係なく、秘密保持の為に秘密を自動設定する場合がある。

 代償:言えない苦辛。


 隠蔽系の能力、闇魔法に付随した能力の装備のようだ。ベレメントが使っていた闇魔法はこれを装備したからなのか。

 土が露出した状態ならまず、植物系の魔物の影響を疑うはずだ。草木が生えないのは魔力が失われているのだから。それなのに、それを全く思い浮かべなかった。もしかしたら、この呪器が関係しているのかもしれない。


 これは使える。良い呪器が手に入ってよかった。呪器を手に入れる度ディストに会うことになるが、これからは楽しめるかもしれない。


(フェルー! 朝ごは~ん)

(ああ、今行く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ