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本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
31/53

25.見慣れぬスライム

 数字が刻まれる。

 命が散っていく。

 心が、凍る。




 あと、何回?

 あと何回、繰り返す?






 ゲノド達と過ごし、村が町に変わり、今日は服が届く日だ。明日、ゲノド達と二回目の試合を行う。ゲノド達は、試合のことで猛特訓し、すっかり服のことを忘れていたみたいだった。

 屋敷のゲノド達に与えた部屋。寝室ではなくリビングで、私はゲノド達六人と、ガロウ、ガレウ、ガラウの十人で待っていた。


 コンコン。


「どうぞ」

「失礼します」


 扉が開かれ、ククナとシギナ、デルクとデルタが入ってくる。


 え? なんか多くない?


「フェル様。皆様の御洋服、ようやく出来上がりました」

「申し訳ございませんフェル様。ククナに付いて行くと、デルタが」

「おい兄貴、言い出したのは兄貴だろ」


 何やらとても賑やかだ。


「フェル様。大勢で押しかけてしまいすいません。新衣を見せていただきたくククナに頼みました。先に報告すべき……」

「いいよ」


 デルクとデルタが言い合う中、シギナが謝る。シギナは硬い口調だが、同年代の友人とは柔らかい表情をする。公私の区別がはっきりしている奴だ。

 何かあれば細かなことでも謝罪してくる為、私は全部聞かずに遮った。


「それに、こういうのも悪くない」


 デルク兄弟が言い合って、ククナが仲裁して。仲裁するククナに、ガロウは服はどうしたと不機嫌だ。ガラウとゲノド達はおどおどしている。ガレウは見守り役だ。


「悪くない、じゃないな。…………良い」

「え?」

「良いだろ? こういうのも」

「……はい。俺も、良いと思います」

「ごめんな、シギナ。予定も色々あっただろうに」

「〝良いもの〟が見られたのでいいですよ」


 ガレウが止めに入り終わりを迎えた言い争いは、きっと、家に帰れば続きが行われるのだろう。


「お待たせしました。どなたから見られますか?」

「じゃあ、ソリアから」

「いいの?」


 ククナの言葉に私が返す。部屋で待つ間ずっと、ソリアはそわそわした様子だった。服が楽しみなのは、彼女も同じだったらしい。


「楽しみにしてくれていたみたいだから」


 包装の紐が解かれ、ソリアの服が取り出される。

 流石ククナだ。包装も解き方も、取り出し方まで丁寧だった。服を大事にしていることがよく伝わる。


 ソリアの服は、Tシャツにオーバーオール。裾が絞れるようになっているものだった。

 恐らく弓使いだという話が回ったのだろう。動きやすそうなコーディネートだ。緑を基調としたデザインに、淡い水色のTシャツがよく似合う。


「可愛い。ありがとフェル、ククナ。気に入った!」

「そうか。なら着てみたらどうだ、ソリア。きっとよく似合うよ」


 この私の一言で、私を含めない全員が着替えることになった。


 ゲノド達の服は、それぞれ彼らに似合い、実用性とお洒落を兼ね備えていた。

 私の視界は歪み、それをはっきりと映すことはなかった。皆が笑っていることだけを感じながら部屋を出た。




 二日前。つまり、最初の試合の翌日。

 彼らは目に見えて努力を始めた。聞き込みと言って出て行ったゲノドは、今日も町の家々を回っている。


「なあ! フェルの得意なことって何なんだ!?」

「フェル様の? あの御方は魔法も得意だけれど、剣技も素晴らしいよ。以前、蜘蛛の魔物の群れと戦っておられた」

「フェル様はいつも、森の中で魔法の練習をしているわ。一人でしているから詳しくは分からないの」

「フェル様に弓を作ってもらった! それでね、弓の使い方教えてもらって、的に当たるようになったんだ!」


 ゲノドが聞く度、その場の誰かが答えを出す。かれこれ三百八十七人に聞いている。全部覚えているのだろうか。

 ゲノド以外の者達は、昨日それぞれの教え手に挨拶し、今日から教えを請うらしい。仕事がある為職場ごとで別れている。


 デルクとデルタは警備で森にいる。ゲノドが町にいるということは、彼らの元にはアンだけがいるのだろう。

 ミサナとガロウは上手くやれているだろうか。ガロウは子供や女が嫌いだ。彼曰く、弱い者に虫酸が走る、らしい。ミサナは弱くはないが、ガロウの基準値を超える強さかは、私には分からない。ガロウも勝手に強くなっているようだし、自身と比較してのことだとしたらミサナが可哀想だ。悪いことをしたかもしれない。


 今日はシギナの所へ行こうと思っている。シギナには、ユビンとソリア、二人も任せてしまった。事後報告で申し訳ない。しかし、シギナなら全員でも問題はなかったと言える。


 シギナは、子供相手に武術全般を教える教師なのだ。私の記憶から、自分の使えそうな技や術を身に付けていった天才だ。

 天才肌では教えづらいかと思われたが、どうやら違うらしい。私の記憶の技術は、ものにするには時間がいるらしいが、肌が合うものは簡単に身に付くのだそうだ。それでも、空手や柔道、自衛隊格闘術までを短期間で身に付けた彼には才能があるのだと思う。


 場所は仮設された学校の一室。机と椅子が規則正しく並べられた教室の一つ。

 見に来てみれば、ホブゴブリン達の中にユビンとソリアが交じっていた。今は座学らしい。教壇にはシギナが立っている。


「戦闘において重要なのは、場所と相手との差だ。戦場ではまず、状況と戦力の把握を行うこと。ここで、相手の戦力をある程度把握し動くことになるが、決して油断はするな。相手が本気を隠している可能性も……」


 シギナの話を、ユビンとソリアが最後列で聞いている。私は巡回管理のスライムに化け、その更に後ろにいた。


 今日は座学だけなのかな。でも、知識は人間の武器だ。知っていて損はない。


 シギナの話を要約すると、戦闘において大事なことの纏めだった。

 数、能力、力量。第一に、これらをかけ合わせた数値の差が、敵との総合戦力差になる。能力では相性があるし、勿論数値だけで勝敗が決まることはない。単純な戦闘では、数が多い方が有利だ。

 そして、戦力差とは別に重要なことが戦場だ。地の利があるとなしでは天地ほどの差ができる。

 例えば、土魔法と水魔法では、水辺というだけで水魔法に力が傾く。また、その場にある物をどれだけ使えるかでも変わってくる。


 知識、情報、科学。

 私は、人間が持つ武器はこの三つだと思っている。人間が唯一、他種族に負けない武器だ。

 ま、この世界ではヒト族に分類されてしまうかもだけど。


 様子を確認して、シギナの意図を掴めたところで、私はお暇するとしよう。授業に熱心で気付かれていないとはいえ、怪しまれては困る。スライム生もなかなかだがな。


 私が出たと同時に昼食の時間となった。本当に危ないところだったと、胸を撫で下ろす。昼食を思い出したところで、屋敷に戻ることにした。私も空腹だったらしい。


 ぐぅ〜。


 聞こえてない、よね?




 昼食を食べたところで、次はアンの所へ行くことにした。警備班に同行しているはずだから、森であることは間違いない。昼休憩で交代しただろうか。

 町を歩いていると、デルタが部下と一緒に向かってきていた。デルダに報告があるからだろう。アンはいない。ゲノドもまたいなかった。


「デルタ」


 まだ昼食が済んでいない可能性もあったが、私はデルタ達を呼び止めた。午前中の見回りだったらしい彼らは、アンにもゲノドにも会っていないという。


「兄に聞きましょうか?」


 聞くというのは以心伝心でということだ。


「ありがとう。でも会いに行くからいいよ」

「分かりました。それにしても、フェル様は以心伝心を使われないのですね」

「会う機会を失ってしまうからね。俺はもう行くよ。じゃあね」

「行ってらっしゃいませ」




 デルタ達と別れて森に入る。木々ばかりで何ら変わらない景色に見えるが、少しずつ違いがある。町の周辺は殆ど覚えてしまった。

 警備は魔獣の痕跡を調べ、時に狩猟班と協力して魔獣を狩る。警備の中には情報収集役として遠くまで行く者もいるが、アンがいるとしたら通常の警備班だろう。

 情報収集の殆どはガロウ達かナハトアが担っているし、今はナハトアしか遠出はしていない。それも夜には帰ってくる。


 森を進めば、予想のままアンを含めた部隊を見つけた。

 スライムにまたも化け、こっそりと話を聞くに、どうやらレッドベアが出たらしい。


 レッドベア。

 戦闘時が決まって興奮状態であることが特徴。大きいものでは五メートルを優に超え、表皮は鋼鉄並みの強度を持つ。その上、鈍足ではなく俊敏だ。


 侮れない敵ならば、練習にも丁度良い。デルク達の援護があれば、私の知る限り危険はないだろう。

 レッドベアは魔獣の中でも、魔物と呼んでも良いほど強い部類に入る。先ず、生半可な刃は通らない。細身の剣は適していない。大剣で裂くのが基本の戦い方だ。それも、援護で思考を逸らした状態でのこと。一人で戦う相手ではない。


「突きが得意と言っていたな」

「はい」

「ならアン。レッドベアと、この剣を使って戦ってみせろ」


 デルクがアンに、そう言いながら一本の剣を手渡した。戦っているところを見るのが、実力を知る手っ取り早い方法だからだろう。


 アンに一人でやらせるつもりか。


 突きが得意と聞こえたが、考えていることは同じなのだろう。デルクのことだ。面白いものが見られるかもしれない。




(フェル?)


 デルク達がレッドベアの元に向かうその後ろで、尾行する私に通信が入った。リスラからだ。


(何かあったのか?)

(うん。それがね、不審者情報だって)

(不審者? まさか、また迷子か?)


 不審者と言ったら、リュフォネやゲノド達のような人間くらいしかいない。不審者というよりも、迷子の方がしっくりくるのだが。

 リスラからの通信に一人眉を歪めて返せば、またも意外な、的外れな言葉で返事がされる。


(リスラなの)

(は?)


 ん? ちょっと待て。リスラが不審者? なんの冗談だ。


(リスラ、リイムとスイムとライムになってたから。それに、その、えっと……、不審? なことしてたかも……)

(何をやっていたんだ……)

(血を、もらってた)


 血をもらっていたとは、進化条件を満たす為か。


(見慣れないスライムがいたって言ってたから、リスラかもって)


 …………。見慣れない、スライム。見慣れ、ない。


(あー、リスラ? 問題ないって伝えといて)

(フェル、スライムの正体もう分かったの!?)

(うん、まあ。とにかく、大丈夫だから)

(分かった! 伝えとく)


 リスラが通信を切った。不審者情報に身構えていた自分と、不審者扱いされていた自分に呆れて物が言えない。

 溜息を吐きそうになるのを抑え、レッドベアとの遭遇を待つアン達の側で私も待つ。


 森の空気が異様なほど静かになる。小動物も、鳥もいない。神経を尖らせれば尖らせるほど、自分の息遣いが耳に入る。確実に、レッドベアに近付いている証拠だった。

 ここはレッドベアの生息地ではない。これはデルクの方が知っているだろう。

 気配を察した彼らも、一点の方向を向き武器を手にした。アンもまた、渡された一本の剣を握っている。


 木の葉が揺れる。枝が折れる。


 向こうもこちらに気付いたらしい。獲物を狙う獣の気配。その気配が、纏うオーラが獲物を怯ませる。

 アンがどうかは知らないが、デルク達、私の従魔には効かない。私が怯まない限り、従魔である彼らが怯むことはないのだから。


 ゲノドがいないが、アンは昨日の戦いで随分と経験があるように見えた。魔獣相手と人間相手では戦い方が違う。それでも経験として悪い訳ではない。


 本はあらゆるものに長けた賢者だ。しかし、英雄や勇者にはなれない。叡智は経験を与えてはくれない。




 三日後。私はゲノド達と再戦する。


『なあフェル。なんで四日後なんだよ』

『え……?』


 あと三日、何故三日?

 昨日、ゲノド達に四日後だと言った。私は、何故その日を選んだんだ?











 何をそんなに、焦っている?

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