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本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
30/53

24.奴隷達は成長する

 森の入口を入って少ししたとき、ソリアがとうとう聞いてきた。


「何しに森に入ったの?」

「ちょっとね」


 それに私は、有耶無耶に応える。言わなかった私が全面的に悪いのだが、そこは許してほしい。

 また暫く歩いたとき、私は振り向き、彼らの前に武器を並べた。


「剣、弓、ナイフ。どれでもいいから選んで。同時でも、一人ずつでもいい、かかっておいでよ」


 今日森に入ったのは、彼らの実力を測る為だ。

 そして、もう一つ。強くなってもらう為だった。


 現状を把握できないまま、彼らは武器をそれぞれ手にした。

 剣を取ったのは、ゲノド、アンの二人。

 弓は、ユビン、ソリア、キオハ。

 ナイフが、ミサナ唯一人。


 アンは、女性で剣の心得があるのだろうか。真っ直ぐに掴んでいた。

 普通はナイフを使い始め、剣に移る。初心者にはナイフがいい。奴隷とはいえ、戦力として数えるには育てる必要がある。教養を身に付ける機会も与えられていたかもしれない。

 ナイフは……ミサナだけか。自分に見合った獲物を選んだようだな。

 近距離、中距離の剣が二人。遠距離の弓が三人。近距離のナイフが一人。魔法を使えて武器も使うかもしれない、私相手だと分かった上でのバランスであれば、百億万点やるな。まあ、聞かないと分からないけれど。


「纏めて来ていいよ」

「本当にいいのか?」

「いいからいいから。ほら」


 煽るように誘う私は丸腰である。つまり魔法一本で戦うということだ。私はまだ、魔法を使い始めてから二週間程度。

 魔法使いは、武器を持った相手と一人で戦うことが先ずない。それは、魔法が支援に特化し、支援に入った方がバランスが取れるからだ。

 また、魔力がなくなったら魔法を使えない魔法使いは、武器を持った敵相手に立ち向かう場合、短期戦で終わらせなければならない。それほどの自信と腕があるならばともかく、そうでないのならそもそも戦わないことだ。長期戦は魔法使いには不利なのだから。


 中途半端な構えのまま後退り距離を置く彼らを見るに、これでも戦ってはくれる気らしい。


 始めに動いたのは、意外にもミサナだった。姿勢を低くし、まるで獲物を狙う狩人のような目をして突っ込んできた。魔法使い相手には良い判断だ。

 相手が私でなければ、の話だけれど。


 私の周りには、『泥沼』がある。

 流狼族と戦った時に使った魔法の一つだ。足を掬う程度の浅さだが、ナイフにとってそれは致命的なダメージになる。

 ミサナが勢いのままバランスを崩す。それを横目に、私は弓三人を目で追った。一人、いない。


 前方にユビンとソリア。四時、六時の方角にそれぞれアン、ゲノドがいる。

 アンはやはり気配を消してきた。それでも、まだ感じ取れる隙がある。

 そして、後方左斜め上。完全に気配を消した状態で、彼は遠距離型としての位置についていた。……キオハだ。


 ミサナが立ち上がる前に、泥沼の水分を集め乾燥させる。

 そこへユビンとソリアが矢を射る。私が地面に手をついた瞬間を狙った攻撃だった。

 水魔法で矢を払い、同時に後方にいるキオハに、右足を軸に回転し攻撃する。枝の折れる音がして、次いで落ちた音が鳴った。

 丁度ゲノドが真後ろに来る形になり、魔法の発動後、キオハが落ちる音に合わせて斬りかかって、……は来なかった。代わりに、柄で突いて来た。


 斬る意思が、ない。


 しかし、ゲノドの突きは、虚しくも何にも当たらなかった。風穴を開けて振り払っただけだった。私の、鏡像を。


 水を極小の水蒸気とし、霧を作る。霧が鏡となって、私の鏡像を生み出す。始めから私は、そこに立ってなどいないのだ。

 ダミーがバレて消えてしまったが、まだ私の場所は気付かれていない。霧は、光の屈折も生み出せる。それが、私の隠れ蓑となるのだ。


 私が何故このような手間をかけたのか。理由は簡単、探し物を見つける為だ。


「見つけた」


 つい笑いが溢れる。これで試したかったことができ、また一つ魔法が増える。


 ゲノド達は、私が消えたことで陣形を瞬時に変えたようだ。

 キオハが仲間の元に戻り、ミサナも土から脱出している。弓三人を中心に、剣とナイフが周りを囲い守る形態だ。弓よりも、剣やナイフの方が魔法を防ぎやすい為、正しい動きだ。


 さて、時間が惜しいから終わらせてしまおう。


 シャボン玉を模した水球が、幾つも森の中を漂う。ただの水球ではない。ある植物の気化したエキス入りという、特殊な物だ。

 彼らはそれを見つけ、すぐに警戒した。当たり前のことだが、しっかり行えているようで何よりだ。


 空気の動きと共に動く謎の玉に、触れて良いのか戸惑っている。触れないことが正解なのだが、半分間違いでもある。

 完全な正解にするには、触れさせないことが重要だ。破れてしまったら終わりなのだから。


 残念なことに、ゲノド達には手段そのものがない。

 玉は弾け、中に入った植物の毒が逃げ場を得る。毒と言っても、それほど危険な物ではない。催眠効果があるだけなのだから。


 おやすみ。


 眠る直前、水球の来た方向にユビンが矢を放ったが、私には当たらなかった。




「お疲れ様。幾つ見つかったかは後で報告してくれればいいから、休んで良いよ。次は交代しながらにしようか」


 トトの羽を輪郭に沿って撫でる。床に直に座った私の足には、ナハトア達がペンギンのように眠っていた。

 夜行性の彼らは、私に合わせて昼間も起きている。四時間眠れば二十時間飛び続けられるというナハトアは、昼夜が逆転しても尚睡眠時間が短かった。

 私の願いで、睡眠時間を削って働いてもらったのだ。急激な生活リズムの変化で疲弊しているはずなのに、休むということをしない。


「茶葉として使った方が効果あるなぁ」


 ベビーバケットにナハトア達をそっと入れ、私はまた森に入っていった。籠を置いた机の横のベッドに、一度だけ視線を向けて。




 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……。

 多いな。何処が良いかまったく分からん。どれも平気なはずだが。


 イレイア。分身は何体まで作れる?

《上限はありません。一体作るごとに分身の能力値が半減していきます》

 分かった。スライムを16体、ナハトアを4体作ってくれ。四つのグループで捜索してもらう。

《…………了》




「フェルっ!!!!」


 部屋にノックをしてから入ると、ゲノドがそれはそれは元気いっぱいだった。鼓膜が破れるのではと思ったほどだ。

 午前中の戦いの解説を求められた。もともとそのつもりだった為話すことにする。


 一番始めに使ったのは、水蒸気を鏡にし、敵を惑わす魔法だ。水蒸気では伝わらない為、霧と言って伝える。

 先に何だと思っていたのか聞けば、光か闇属性の魔法だと答えた。やはり分からなかったようだ。


「でも、じゃあ何であのとき魔法で矢を防げたの?」

「答えは簡単だよ。霧としていた水を使っただけ」


 普通魔法とは、発動する者の近くでしか発生させられない。

 では何故できたのか。先程言った通り、霧こと水蒸気を使ったまで。気体となった水を液体に戻し操作しただけなのだ。遠くからの操作は最近の訓練で身に付けた。


 次に、ゲノド達を眠らせた魔法。はっきり言って、あれは魔法でも何でもない。ただの催眠効果のある植物を使っただけのことに説明を求められても困る。


「水の玉の中を空洞にして、その中に催眠効果のある植物を入れただけ」


 という訳だ。本当はナハトア達だけに使うつもりだったのだけれど。

 解説をそっちのけで、私の思考は分身の方へと向いていた。


 彼らをどこまで強くすればいいのか、これで分かればいいけれど。


「なあ、話聞いてるのか、フェル」

「あ、ああ。ごめん。何の話だっけ」


 全く聞いていなかったから返事ができない。


「鏡も、偽物の魔法の仕組みも分かった。けど、鏡でも何であんな動きができたのか訳分かんないって言ってんだよ」

「ゲノドの言うことは分かる。僕も、フェルの動きには驚いた」

「私達の動きが見えていたとしても、鏡写しでそれに合わせるのは難しいことよ。フェルちゃん、貴方は一体何者なの?」

「生きることに必死なだけだよ。本気で、全力で、必死で。そうすれば誰でも同じさ。僕の場合、条件反射みたいなものだし」


 鏡写しで動きを合わせるのは大変だった。特に音と気配を消しながらでは、森というフィールドは相性が悪い。自由に動けないのが難点だ。

 戦いの場を森にしたのは私だけど。


 五日か。ほんと、短いな。


「ゲノド達には、僕に勝てるまで強くなってもらいたい。期限は今日を含め五日間。四日後の昼、君達が選んだ場所でまた戦おう。次は、僕に勝ってね」

「また戦うの? フェルと?」

「うん。そして、勝った方は負けた方に一つだけ、命令できる権利を与えるから。頑張ってね」


 私の言葉に、彼らの、特にゲノドとキオハの目が輝く。


「戦い方、教えてくれるんでしょ?」

「僕は何も教えないよ。但し、場所は皆が決めた場所で、僕は魔法を一つの属性しか使わない。教えてもらえる者は僕以外に沢山いるから、問題はないだろう?」


 疑問符が彼らの頭の上に浮かんで見える。納得までは行っても、それで勝てる自信を持つまでは行っていなさそうだ。


「フェル以外なら、誰でもいいんだろ? ならいいさ。俺、情報集めてくっから」


 早速ゲノドが飛び出して行った。行動力と決断力は褒めよう。時に、行動力と決断力は生死を決める。それだけ大事なことができる者がいるだけで、生存者の数が変わる。


「聞いてなかったけど、皆は武器をどうやって選んだ?」


 何か忘れていると思ったら、武器のことだった。魔法の解説とかで抜けていた。


「私は、剣を振ったり、弓を引いたりする力がないからナイフを選んだの」

「扱い方を知っていたのが剣だけだったから」

「僕は、ソリアとキオハに合わせて、かな」

「近くで戦うの怖くて」

「……自分に合っていると、思ったから」


 ミサナ、アン、ユビン、ソリア、キオハが、それぞれ理由を述べる。

 自分の扱える物、他とのバランスを考えた結果の物、恐怖心から取った消去法で出た物、自分との相性で選んだ物。


「選び方は間違ってなかったよ。ただ少し気になってね。キオハは、弓よりナイフの方が良かったんじゃないかな」


 戦ってみた感想なのだが、キオハは気配の消し方が上手だ。しかし、弓の扱いはそれほどではない。恐らく、三本に一本は的に当てられない。


「キオハは、気配を消すのが上手かったね。びっくりしたよ。これは僕の考察だけど、弓を選んだのは、殺気を消せないからじゃないかな」


 キオハの肩が跳ねた。


「気配と殺気は少しだけ違う。気配は感じ取るものだけど、殺気は向けられるものなんだ。相手に殺気を向けられると、突き刺さるような感覚がする。だから遠距離型の弓を選んだ。違う、かな?」

「…………そうだよ。前、言われたことがあったから。弓の方がいいんじゃないかって」

「キオハは、暗器を使うべきだ。だからあの時はナイフが良かった。キオハはガラウに教わるといいよ」


 つい口が滑ったと思ったが、もう遅い。しかし、これで良かったとも思う。私が望むのは次戦の勝利ではなく、彼らの成長なのだから。


「ミサナはガロウ。アンはデルク。ユビンとソリアはシギナ。ゲノドはデルタ。ゲノドには後で伝えておくよ。勿論違う者に教わってもいい。多くの者と経験を積めば、それだけで強くなる」


 強く、強くなってもらわなければ。


「もう一度言おう。頑張れ。四日後を楽しみにしているよ。僕に勝ってね」

「うん!!」


 今いる五人の声が重なった。

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