表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
29/53

23.奴隷と服

 その部屋には、ベッドの上で魘される子供がいた。

 汗を拭かれ、貼り付いた髪を直されている。握られたか、握っているのか分からないが、リュフォネと片手が繋がっていた。

 眉間を狭め、濡れた枕をさらに濡らすように涙が落ちる。


 病でなければ、悪夢に魘されているのだろう。

 リュフォネを含む人間である者以外が、フェルの悪夢を理解する。以心伝心を無意識化で使用するフェルが、悪夢の中で泣き叫ぶ。


 逃げてと、行かないでと、ごめんなさいを繰り返す。今まで〝これほど〟魘されていることはなかった。従魔だけが、痛みを知ったまま動かなかった。いや、動けなかったという方が正しいだろう。




「何なんだ……?」


 唸る音を遮る形で、誰かが言った。それはこの状況を理解できないゲノド達の中の誰かだった。


「部屋を用意いたしました。ご案内します」


 その声に応える者はなく、代わりにガレウが話を逸らした。リュフォネも席を立ち、魘されるフェルを残し部屋を出た。


 三階の玄関側の大部屋の中。ベッドの並んだ寝室で、彼らは話されるのを待っていた。


「申し訳ございませんが、僕から話すことはできません」


 ガレウはゲノド達が言いたいことを悟り、聞かれる前に言った。


「あの。魘されていたのに、何で起こさないんですか?」

「起こすなと、言われたからです。一から説明いたします」


 ガロウとガラウが、壁に凭れる状態でガレウに目配せをする。余計なことは言えない。以心伝心により、フェルの思いを知ってしまった従魔は、契約上情報を洩らすことができない。

 よって、可能な言動は限られていた。


「契約上、詳しくお教えすることはできません。それを踏まえた上でよろしければ、できる限りでお話しましょう」


 ガロウ、ガラウ以外の者。つまりはガレウ、リュフォネ、ゲノド達六人がベッドに座っている。リスラはスライムの元に行きいなかった。そんな中、ガレウの声だけが、広い部屋に木霊する。


「我々従魔は、フェルと言葉を交わさず意思疎通ができます。フェルは決して、自身のことをひけらかすことをしません。暗に伝えるということもしません。能力によりそれを知ってしまった為、言えることは一つだけ」


 ゴクリと、誰かが喉を鳴らす音がした。


「フェルは、貴方方のような、振り返りたくもない過去と、そして未来を持っています」

「はは、ガレウ、それじゃあ伝わらないだろ」


 一つだけを言った直後、リュフォネが口を挟んだ。困ったような笑いだった。

 ガレウ自身、それを知っていて選んだ答えだ。選ばざるを得なかったとはいえ、ゲノド達に伝えるには難題すぎた。


「ガレウの言う、未来っていうのは分からないけど、過去なら話せる。俺は魔物じゃないから、俺が話すよ」

「リュフォネっ!」

「フェルは暫くすれば必ず話す。話さなくて済む従魔とは違う。自分の口で、鮮明に思い出し、話すんだ。だから、先に俺が言う」


 それにガレウは反論できなかった。

 バトンを繋ぐように、ガレウからリュフォネに話し手が変わった。始めからこうしていればとも思えるが、リュフォネを気遣ったガレウによる遠回りだった。


「フェルは、魔法を師匠から教わったと言っていたけど、それは知ってるか?」

「はい、フェルちゃんが言ってました」

「その師匠が死んで、森を出ようと旅に出たらしい。ガレウ、ガロウ、ガラウ。フェルと出会ったのはいつだ?」

「十三日前だ」


 一つひとつ質問しながら話し進めるリュフォネの問に答えたのは、ガロウだった。初めて従魔契約してから、十三日しか経っていないのだ。


「フェルはその日、師匠を失くした。フェルは、自分が殺したと、そう言ったんだ。それが真実かどうか、俺には分からない。俺も、フェルとはまだ数日しか過ごしてない。たとえ本当に殺したのがフェルでも、悪い奴ではないと断言できるよ。だから、これは俺からの願いだ」


 一度、話を切ったリュフォネが、フッと笑った。


「フェルを見捨てないであげてほしい」




 時は夕刻。空が橙に染まり、東では紫が見られる頃。

 客がいることで豪華となった夕食の席には、フェルと従魔の古参、リュフォネ。そして、ゲノド達がいた。


「えっと、どうかした?」


 食事の席が暗いことに耐えかねたフェルが聞く。何でもないと、それぞれから返されるが、どう見ても何かあったと分かる。


「フェルちゃん!」


 ミサナが意を決したようにフェルを呼んだ。助け舟が来たと、フェルもそれに乗っかることにした。しかし、それは助け舟と呼ぶにはあまりにも泥舟に近かった。


「私達、決めたの。フェルちゃんと、奴隷契約を結ぶことにする!」

「え!! 何で!?」


 僥倖であった為に、フェルの戸惑いは計り知れなかった。




 夕食からニ時間前まで遡る。

 日も大分傾いたこの頃、ゲノド達はミサナを中心に話し合いを行っていた。


「私、フェルちゃんに恩返ししたい」


 そう切り出したのはミサナだ。


「初めのご主人様は優しい人だった。恩はしっかり返すようにって、何度も言ってたの。だから……」

「俺も、フェルは嫌いじゃない」

「ゲノド……」

「ユビンも、アンも、ソリアも、キオハも。それで良いだろ?」

「ゲノドが誰かに興味を示すなんて珍しいものも見られたし」

「そうそう。前はもっと可愛かったのに」


 ユビンとアンが茶化す。ソリアとキオハも、


「ゲノドは素直じゃないから」

「僕はそんなゲノドも可愛いと思うよ」


 と続いた。

 ゲノドの顔が見る見るうちに赤く染まり上がる。

 訂正。ゲノドを中心の話し合いだ。


「なぁ、俺の存在忘れてるだろ」


 その輪に入れず一人呟くリュフォネがいたが、彼らの耳には届かなかった。


 やっと笑顔が見られた。


 リュフォネは思ったが、今度は声に出さなかった。


 話は進み、奴隷に関する話題になった。主がいる限り、自分達は自由になれない。

 ダンジョンで消えた者は、例え生きていたとしても戻ることはない。何れ契約破棄されるとは思っていても、それが今の安心には繋がらなかった。


「なら、やっぱり契約の『上書き』するしか」


 契約の『上書き』。契約を二重で行うことで、一枚目の契約を強制破棄する方法である。しかし、それにはリスクが伴い、失敗する危険性がある。無事契約が成功したとしても、主が二人いる状態になることもある為、あまりやる者はいない。

 そしてその上書きに、キオハが反応を示した。


「僕、契約陣の紙持ってる」

「え?」


 契約陣を記した紙をキオハが持っていると言うのだ。ソリアが驚きで固まってもおかしいことではなかった。


「キオハ、またやったの?」

「別に、貰っただけ」


 アンにキオハが、どうということもないと言いたげに答えた。その会話を蚊帳の外で聞いていたリュフォネは、それだけで何かを悟ったが、それはまた別の話。


 と、そんなこんなでフェルのいないところで話は進み、奴隷契約の上書きをしてもらおう、となった。




 フェルはその話を聞き、持っていた肉をフォークから落とした。すかさずガロウが掴み食らう。落ちなかったことは良かったと、フェルは思った。


「契約はしてもいい。但し、破棄は俺の判断でする。それでいいなら、明日にでも試そう」


 あっさりと。それはもうあっさりと請け負った。

 全ては、――の為に。



……



 ナハトアと契約してから、朝はナハトアの鳴き声で起きるようになった。

 契約と言えば、昨晩、ゲノド達に奴隷契約をしてほしいと頼まれた。私から言おうとしていたことだから良かったと、内心ほっとしていたりする。あくまで上書きだ。それに、奴隷非容認主義でもない。


 朝食を普段通り食べ、朝の支度を済ませる。これから奴隷契約をするとなると、従魔契約とは違うからか変な気分だ。


 キオハが何故だか知らないが、契約陣が描かれた紙を持っているらしく、ありがたく使わせてもらう。

 失敗してもすぐ対処できるようにと、契約はゲノド達が使った部屋にした。


「じゃあ、契約しようか」


 契約陣の描かれた紙は、三十センチ四方ほどだった。一度で契約はできそうもなく、床に拡大して描き写すことにして今に至る。

 床を埋め尽くす文字の上に、ゲノド達六人が並び立つ。円を描き手を繋ぎ、そして目を伏せた。


 手を合わせ、目を閉じ、イレイアに詠唱を頼む。


《詠唱を復唱してください。

 我に仕えたらんとせし者等よ――》

「我に仕えたらんとせし者等よ、その名を預けよ。我が名はフェル。そなた等の名を預かりし者なり」


 私の詠唱の後に、彼らが名前をそれぞれ述べる。彼らが胸に持つ奴隷紋が紫色の光を放ち、次第に収まっていった。どうやら痛みを伴うようで、若干涙目だ。


 ステータスに彼らの名が加わった。これで、ゲノド達は私の奴隷となった。以前の主も消去され、破棄ということになっている。

 ステータスに、従魔に加えて奴隷の項目が現れる。従魔に比べて、事細かな制限や罰則が設定できるようだ。

 私はある項目にチェックを入れてステータス表示を閉じた。




 契約の後は、彼らに着替えてもらった。

 ホブゴブリンのメスであるゴブリナ達に、仕立てをしてもらい作る。私が一番に建てるよう指定した建物の中の一つが、服飾関係の工房だった。


「採寸からいたしますので、フェル様はどうぞこちらに」


 私も一着仕立てて貰おうと思っていたのだが、別室に案内されてしまった。ゲノド達には、彼女の言うことを聞いて、良い服を作って貰えと言っておいた。


「フェル様、来てくれたのですね」


 また別のゴブリナ、この工房の工房長をしているククナが声をかけてくる。


「ああ。皆の服を作ってもらっているからな。俺も、新しい服を一着仕立てて貰おうと思っていたんだが、いいか?」

「はい! 是非作らせてください」


 良かった。工房もしっかり稼働しているようだし、問題はなさそうだ。私の記憶から、デザインのアイデアは豊富に出てくるだろうし、そこから発想力を鍛えてほしい。


「では、デザインから決めてしまいましょう。フェル様はどのようなものをお望みでしょうか?」

「そうだな……」


 なるべく動きやすく、色は季節に合わせること。デザインはククナに任せるという条件で発注させてもらった。

 私の発注が終わる頃には、ゲノド達の採寸も終わったようだった。一応、採寸して着られるサイズの服を着てもらう。私と同じで、後日できた服が屋敷に届けられるらしい。

 今から楽しみだ。


 ゲノド達の服は、それぞれククナが指名した者達が、デザインから縫製までやってくれるそうだ。協力して統一感のあるデザインにすると言っていたので、兄弟姉妹のようなお揃いになる予感がする。


 礼を言って工房を出て、次は森に向かった。

 ナハトア達から入った報告と、ゲノド達の実力を確認する為に。

 現在ナハトアはお休み中だが、昨日は一日中飛び回っていたらしい。無理をさせてしまったと反省しよう。まあ、楽しんでいたみたいだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ