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本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
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20.持たざる者は力を求む

 リスラのスライム進化に付き合い魔法を使ったことで、魔法の練習や復習、開発を行おうと思った。

 ユノアとの思い出が遠い過去のように薄れている。憶えてはいるが、ずっと前のことのような感覚がするのだ。いつか消えてしまいそうで恐い。だからということでもないのだが、少しずつ思い出してみようと思う。


 魔力と魔素。

 魔力は一部の者が持ち、魔素は誰もが持つ。そして魔源(ルミナ)はそれらの源。ユノアから教わったのはこれだけだ。


《情報の差異が見られます》


 イレイア。以心伝心じゃなくてもいいからか。

 魔力と魔素の違いって何なの?


《ルミナとは魂であり源。この世のあらゆるものに存在するもの。そして、その中に魔力と魔素が存在します。魔力と魔素はどちらも誰もが持っています。純度と濃度の違いにより、有無が分かれます。

 ヒトの場合、魔力と魔素が混ざり合っていることが多く、魔力を持つとされる者は混ざらなかった魔力がある者を指します。

 魔物、魔獣の場合、魔力と魔素は混ざらずに存在します。よって純度の高い魔力と魔素を持ち、それがヒトとは異なる為に違う力を持っているとされています》


 すっっっごい分かりやすかった。因みにどこ情報なの?


《本に書かれてあります》


 あ、あの本か。ありがとう、助かったよ。


 そんな違いがあったとは知らなかった。何故、ヒトと魔物、魔獣で違いが出るのかも気になるが、今は魔法が先だ。


 火魔法なら花火だろうか。火玉を小さく圧縮し、そこに更に熱を込める。耐えきれなくなった火玉が弾けて、線香花火になる。

 線香花火は極少量の魔力でできる魔法だ。前に面白半分でやったら魔力を使いすぎて軽い爆発を起こした。それから魔力を少なくすることを目標にやっている。

 そのお陰と言っても過言ではないのが、風魔法の例だ。魔力量の調整は大きくすることより小さくすることの方が遥かに難しい。


 水魔法は既に応用にまで発展している。火属性や土属性と合わせる合成魔法だ。火属性なら熱湯、土属性なら泥水。迷惑にならないことを考えた結果、部屋では水蒸気を作ることにした。湿度が高くなった……。当たり前だけど。


 土魔法では製作だろうか。フィギュアや、リュフォネの能力のような建物を小さくしたジオラマだ。細工は魔法操作に繋がるところがあって役立っている。


 風魔法では旋風や、フィギュア作りに使っている。物や作り出した魔法を、魔力で動かすのではなく風魔法で動かしてみたり。


 私が使えるのはこの四属性だ。あとは回復魔法が偶然か何かでできたくらい。命属性はよく分からないけれど、光、闇、そして無属性なら使えるかもしれない。

 光魔法と闇魔法は四属性通りに想像すればできた。前世の記憶様々だ。光魔法は電球のようになったが、闇魔法は何故かイメージとは違った。想像したよりも暗く、黒というより無であるかのような闇だった。覗いても覗いても底の見えない闇だった。

 使い道はあるが、応用は難しいだろう。


 残るは無属性、無魔法か。


(フェル様、ガレウです)


 丁度、無魔法を試そうとしていたところにガレウから通信が入った。話によると、狩りに出ていたデルクとデルタが何かを発見したらしい。デルク達ゴブリンの狩猟には、以前から流狼とペアを組んで行うようにしていた。生存率を上げる為もあるが、機動力と、何よりも狩りを得意とし走り続ける流狼の希望であった。

 得体の知れない物には触れないように、そう代々ゴブリンの間では言い伝えられているらしい。触れただけで死に辺り一帯を火の海にしたり、仲間全員を殺して狂人と化したり。昔からよくあることらしい。触れなければ危害は出てこなかった為、触れるなとだけ言い伝えが残ったとのこと。

 その得体の知れない物体が、結構村に近いところで発見されどうすべきかの判断を委ねたいそうだ。

 時刻は昼過ぎ、まだまだ明るい時間帯だ。行くことをガレウとデルク、デルタに伝え、デルダにも伝わっているであろう凶報に、安心させるべく向かうことを伝えた。


 デルクの案内の元、森を少し進んだところに謎の物体はあった。合流を果たしそれを見せてもらえば、なんとも言えない不気味な物が。正確には、白骨化した骸骨が変な面を着けてそこにいた。

 白骨死体は不死(アンデッド)化していないからいいらしいが、仮面が問題らしい。どうやら、得体の知れない物とは装備のことらしい。

 白い靄のようにも黒い影のようにも見えるそれは、ずっと目にしてはいけない気がした。触れなければ問題はないそうだが、私は例外なのだろうか。先程から喉が熱い。首全体がヒリついていて痛い。触れてはいけない。それはゴブリン達の間では常識だ。もしかしたら、この森の魔物全体でいえることかもしれない。それなのに、喉の熱が〝触れろ〟と叫ぶ。


 これは、大丈夫。


 根拠のない確信が、遂に私を突き動かした。本当に、爪の先ほどだけがそれに触れた。後ろで制止の声がかかっていることを頭の隅で受け止め、触れたというより当たったという感覚が残りを支配した。静電気のようなピリッとした痛みが爪を伝って走った後、それが指、腕、肩を通って顔まで届いた。視界が何色か分からない一色で埋め尽くされて、頭の中が空っぽになって。


 あれ、私ってどうなった?






 何もない空間にいた。白だけで影すらない。平坦ではあると思うが、空か壁かも分からない四方全てが白い。自分が何でここにいるのか分からない。こうなる前に、何かに触れたことは憶えている。


「もう鍵を見つけたか」


 声が先に認識された。仏頂面の男が一人、私と同じように白の中にいる。彼にも影はない。鍵? 何を言っているの?


「既にこれほどまで。だから止めろと言ったのだ」


 理解できないことを一人語っては、誰かに向けての怒りを顕にする。彼を、私は知っている。探していたのだから。


「死神……?」


 あらゆる可能性を考えた上で、先ずは彼のことであろう名を口にした。声に出したつもりが、口の中で消えそうなほど小さく、そして震えていた。それでも、彼まで届くには足りたようだ。


「如何にも。私は死神、ディスァモルサムブロバートだ」

「さむぶろじゃなくて、かんぶろ……」

「ディスァモルサムブロバートだ。ディストでいい」


 二回も言った。長いとは思っているらしい。とても疲れているように見える。え、私の所為? それはないでしょ。

 なんだろう。折角会いたかった人物に会えたのに、何も感じない。それどころか、何の為に会おうとしていたのかすら分からない。


「これだけ早いと言えることがないな」


 何やらぶつぶつ言っているが、始め以外は上手く聞き取れない。深く考える仕草の後、こちらをまっすぐ向いたと思えば何と呼べばいいかと聞いてきた。素直にフェルと応える。でも、いつ変わるかも分からない名であるとも。神だから隠しても無駄だと思っているのか、それともこの空間にいて危機感がなくなっているのか。


「何で私を、ユノアと会わせたの?」


 全ては始めから仕組まれたことだった。


「何で私に、ユノアを殺させたの?」


 ユノアの能力を手にさせると共に、ユノアを私から奪う為。


「何で私は、人じゃ、ないの?」


 神に会えたということは、質問していいってことだよね?

 わざわざ話しかけたということは、話す意思があるってことだよね?

 声が震える。自分で傷を抉って、一体何がしたいんだろう。


「答えてよ! 死神、ディスァモルサムブロバート」


 震えが怒りだと思われればいい。間違いではないのだから。前世で死んだところまでは、まだいいとしよう。それでも、この世界に生まれ変わったのは、ユノアに出会ったのは、ユノアと別れたのは!! 仕組まれたことでも、嬉しかったし、許せない。

 ここなら、ここでなら、怒りを神相手にぶつけられる。


「何で! 何でっ!!」


 夢を見た、あの日。思い出したくもないあの日。ユノアは確かに、私に何かを伝えてきた。夢の中で、ユノアの声が聞こえなかった。ユノアの顔が見えなかった。最後に見た顔が血塗れだなんて、思いたくない。朝目が覚めたら、ユノアの顔を見れると思った。でも、見れなかった。

 なのに彼は、彼はあんな目を向けたんだ。向けたくて、向けられなくて。見たくて、見れなかった。酷く、酷く……。


「そんな辛い目されたら、私が悪者みたいじゃん」


 ディストは口を開かない。あのときと同じ。ユノアを見れずに私を見て、嘘をつこうともつけないで。


「あいつの、望みだからだ」


 顔を歪め、あのときと同じ目で、神が言う。やっと出た答えが、私には子供の言い訳に聞こえた。心が傾きかけているのが気に食わない。


「もうそろそろ時間だ」


 え?

 唐突に、俯き私を見ようともしなかったディストがそう言った。時間と言われても、まだ聞いていないことが山とある。


「鍵は呪器だ。私が君に嫌われていることは分かっている。しかし、それでも力を、手を貸して欲しい。この世界の為に」


 目が合う。低く柔らかい声が耳を擽り過ぎていく。待ってと言いたいのに言えない。身体の自由がきかない。

 待って、まだ聞き足りない。本当はユノアを殺したくなかったんでしょ? ねぇ、待って。ディスト!


「フェル。感謝する」


 終わりが近付く中、ディストが私の名を呼んだ。柔らかい声に合う、柔らかい表情で。何故か、何にか分からない。ただ、嘘をつくのが下手な死神は、感謝をするのもまっすぐだった。






 私を呼ぶ声に目を開けば、不安に潤ませた瞳が幾つも覗いていた。ガロウ達、従魔の中のトップだ。デルダ達親子もいる。


「フェル! よかった」


 ガラウが半泣きした顔で、寝た状態の私に抱きついてきた。声を聞いたのは久々だ。何となく頭を撫でてやる。何をここまで心配させたのか、まだよく思い出せない。何があったんだっけ?


「フェル、目ぇ覚ましたか」


 リュフォネが、この場にいる誰よりも冷静に見える。ちょっと怒ってる、かもしれない。


「で、何で呪器に自ら触れるような馬鹿したんだ?」


 これは結構怒っている。ここでようやく自分がしたことを思い出した。あれが呪器かと呑気に思う。


「えっと、呪器を、集めて、て」


 言い訳が思い付かない。リュフォネの静けさが怖いです。案の定、思いっきり溜め息を吐かれた。説教と同時に犯罪である情報をくれたリュフォネは、頭を抱えて唸っていた。身体を起こしたが、出た謝罪は小さかった。


「集めなきゃいけない、理由があるから」


 集めなければならない。ならなくなった。ディストのことは後回しでも平気だろう。きっと、私はこの世界に来てしまった時点で、平凡な人生を望めない位置にいたのかもしれない。


「話したいことがある。少し時間を貰ってもいいか」


 私が関わる者全てに、迷惑になるようなことだ。不幸体質とでもいえばいいのか。平凡を望んで、逆に平凡から遠ざかるとは思いもしないだろうに。

 私の願いを、この場にいる全員が快く了承してくれた。


「俺は皆と、これからも一緒にいたい。冗談とかじゃなく本気でそう思っているし、この話も本気だ。知っての通り、俺は一人の人間を殺した。沢山の事を与えてくれた人を殺した。でも、人間が好きだ。リュフォネのように人と関わることがこれからもある。魔物だから上手くいかないこともあると思う。笑ったり、泣いたり、ふざけたり、怒ったり。ここで、魔物だけで人と関わらずに生きることもできるとは思うけど、俺はできない。そして俺がいれば、笑うことが簡単にはできなくなる予感がする。だから力がいるんだ。その為に、皆には目を瞑っていて貰いたい」


 ディストは嘘が下手だ。赤だらけのあの場で、唯一見られたのが私だけだった。表情筋が硬いようで隠せていない。理由は知らないが、ああするしかなかったのだろう。私はもう、彼らの掌の上に乗ってしまった。踊り続けるしかないのかは、今はまだ分からない。けれど、ディストを見ていたら、踊っていてもいいと思える。

 力がいる。強い力が。全てを守れるほどの力が。


 台風の目の中は、とても天気が良いんだ。私はそこに生まれてしまって、そこから抜け出そうとしているのかな。煽られて、流されて、奪われて、大変な旅になる。それが私の今世なのだとしたら、抜けた先の空が見てみたい。籠もっていられる性分じゃないんでね。


 私に出会った者は、幸福か、不幸か。ディスト以外に神がいるなら、これは宣戦布告だ。この世界に私を呼んだ神々への挑戦。


 転生者(チーター)を舐めるな。




 皆といたい。皆と笑いたい。皆と泣きたい。だから今は、笑うことにするよ。


「ごめん。巻き込まれてくれ」

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